子どもの「思いやり」や
「感情コントロール」にも効果が!!
―集中力も成績もアップするマインドフルネス、これはお子さんを持つ人たちにもぜひやってもらいたいですね。
はい、無理のない範囲でぜひトライしてみてもらいたいです。ただ、ここでもう1つ強調しておきたいのが、マインドフルネスの目的は「集中力を高めること」だけではないということです。
―まだほかにも効能があるのですか?
はい、さきほどのカナダの公立校で行われた実験でも、算数テストのスコアだけを測定したわけではありません。行動評価、唾液内のコルチゾール値(ストレスホルモン)、幸福度アンケート、同級生による評価など、あらゆる角度からマインドフルネスの効果を見ています。
調査では、マインドフルネスを実施した生徒たちのほうが、社交的な行動特性が24%高く見られ、攻撃性が24%低くなっていました。認知をコントロールする力、感情をコントロールする力、プラス思考、思いやり、ストレスレベルなどなど、すべてにおいて対照群の生徒たちよりすぐれていたというから驚きです。
―勉強もできて思いやりもある子に育つのであれば、親としてもうれしい限りですね。
『最高の休息法』のなかにも、反抗期にさしかかったティーンエージャーの娘を持つ女性の話が登場しますが、マインドフルネスは子どもの反抗期に効果があるとも言われています。マインドフルネスをやったことでティーンエージャーの行動が改善し、親子の関係、親の自信が回復したという報告もありますね。
また、注意力や行動に関する問題の典型的な事例として、ADHD(注意欠陥・多動性障害)などの子どもとその親を対象に、マインドフルネスを試みた臨床研究もあり、そこでもしっかりと改善傾向が見られています。
親子でできる
マインドフルネスワーク
―最後に、親子でできる具体的なマインドフルネスのやり方を教えていただけますか?
まずいちばんのポイントは、子どもに無理強いをしないことですね。拙著に登場した夏帆という女性は、京都の禅寺で育ち、幼い頃から父に坐禅を強要されたことがトラウマになっていました。マインドフルネスの核心は「あるがまま」です。「やらなければならない」「こうでなければならない」といったジャッジメンタルな(一方的に決めつけるような)姿勢を親がとると、子どもにはかえって逆効果です。
そのうえで、まずは1日3分でけっこうですので、「マインドフルネス呼吸瞑想」を親子で毎日やってみましょう。詳しいやり方は『最高の休息法』にありますが、とてもシンプルな方法ですので、少しの努力で続けられるのではないでしょうか。
―なるほど。とはいえ、いきなり「呼吸に注意を向けろ」と言われても、ほとんどの子どもは戸惑ってしまうかもしれませんね。
そこで、もう1つおすすめなのが「食事瞑想」です。「食べている感覚に注意を向ける」だけであれば、比較的ハードルは下がります。ポイントとしては次のような感じです。
・食べる前に目の前の食事をあたかも初めて食べるかのようによく観察する
・食べ物の匂いや味に細かく注意を向ける(食材ごとの違いなども)
・食べているときの身体の動きなどに注意を向ける(あごの動き、手の動き、舌の動き、唾液が出てくる感じなど)
・食べるときの触覚にも細かく注意を向ける(歯で噛んだときの感じ、口の中に当たる感じ、喉を通っていく感じ、胃に落ちていく感じなど)
―たしかに「食事」であればお子さんも飽きずにできそうですね。
マインドフルネスというとどうしても目を瞑って坐禅を組むような「瞑想」のイメージが強いと思いますが、あくまでもポイントは「注意のコントロール」です。食事や歩行、ドアの開け閉めのような日常的な動作であっても、注意深く意識を向けるようにすれば、マインドフルネス瞑想に近い効果は期待できます。
―日常の中でのマインドフルネス、ぜひ親子ではじめていただきたいですね。今日はありがとうございました。
医師(日・米医師免許)/医学博士
イェール大学医学部精神神経学科卒業。アメリカ神経精神医学会認定医。アメリカ精神医学会会員。
日本で臨床および精神薬理の研究に取り組んだあと、イェール大学で先端脳科学研究に携わり、臨床医としてアメリカ屈指の精神医療の現場に8年間にわたり従事する。そのほか、ロングビーチ・メンタルクリニック常勤医、ハーバーUCLA非常勤医など。
2010年、ロサンゼルスにて「TransHope Medical」を開業。同院長として、マインドフルネス認知療法やTMS磁気治療など、最先端の治療を取り入れた診療を展開中。臨床医として日米で25年以上のキャリアを持つ。
脳科学や薬物療法の研究分野では、2年連続で「Lustman Award」(イェール大学精神医学関連の学術賞)、「NARSAD Young Investigator Grant」(神経生物学の優秀若手研究者向け賞)を受賞。主著・共著合わせて50以上の論文があるほか、学会発表も多数。趣味はトライアスロン