マインドフルネスで算数の点数が上がった

―しかし、本当に瞑想だけで成績が上がったりするものでしょうか?

それについてはすでに研究成果が報告されています。カナダのブリティッシュコロンビア州の公立校で、9歳前後の生徒99人を対象にした実験があります。この実験でマインドフルネスのプログラムを受けた生徒グループと受けなかった生徒グループの「算数の成績」を比較したところ、前者のほうが「15%高いスコア」を示したそうです。

Schonert-Reichl, Kimberly A., et al. "Enhancing cognitive and social–emotional development through a simple-to-administer mindfulness-based school program for elementary school children: A randomized controlled trial." Developmental psychology 51.1 (2015): 52.

―えっ!マインドフルネスをやっただけでテストの点数が15%も高くなったんですか?

ええ、ただし、実験では4ヵ月のプログラムを施したのちに測定をしていますから、すぐに効果が出ると言い切ることはできません。マインドフルネスを受けたグループの生徒は、食事やエクササイズなどにもマインドフルネスを組み込み、さらに、3分間×3回の「マインドフルネス呼吸瞑想」を毎日続けています。

―なるほど、やはりある程度の「継続」が必要だということですね。

はい、個人差もありますが、重要なのは習慣的に続けることですね。人間の脳はさまざまな刺激によって変化していくことが知られています。これを脳の「可塑性(Plasticity)といいます。要するに、神経間のネットワークに変化が起きていくわけですが、これにはやはりある程度の時間が必要だとされています。
一方で、ごく短期間(20分×5日間)のトレーニングでも改善傾向が見られたという報告もありますから、「まずは1週間」くらいの気軽さでとりあえずはじめてみていただきたいですね。

Tang, Yi-Yuan, et al. "Short-term meditation training improves attention and self-regulation." Proceedings of the National Academy of Sciences 104.43 (2007): 17152-17156.

マインドフルネスで
「集中力のある脳」を育てる

―マインドフルネスをやると、具体的に脳にはどのような変化が生まれるのでしょうか?

マインドフルネスが脳にポジティブな変化を起こすことはまず間違いないと言っていいと思います。たとえば、マインドフルネスを脳科学的なアプローチで解明しようとしているジャドソン・ブリューアー(マサチューセッツ・メディカル・スクール大学)は、10年以上の瞑想経験がある人を対象に、マインドフルネス・セッションを行ったときの脳活動を測定しています。すると、明らかにマインドフルネスを習慣にしている人の脳では、内側前頭前野と後帯状皮質という部位の活動が低下していました。

Brewer, Judson A., et al. "Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity." Proceedings of the National Academy of Sciences 108.50 (2011): 20254-20259.

―それはどういうことを意味するのでしょうか?

内側前頭前野と後帯状皮質は記憶・感情などに加え、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という脳回路に関係が深い部位でもあります。このDMNでは、意識的な働きをしていないときにも動き続ける脳のベースライン活動が見られます。いわば脳のアイドリング状態ですね。端的に言えば、脳というのは、つねに動いていようとする臓器なのです。

―たしかに、どれだけぼーっとしているときでも、頭の中にはいろいろな雑念が浮かんできます。

そうなんです。DMN=「心がさまよっているときにより働く回路」だと理解していただければいいのではないでしょうか。つまり、目の前にあるタスクに集中せずに、気が散ってしまっている状態のときには、このDMNが活動しています。過去のことを激しく悔やんだり、未来のことを過度に不安がったりしている人なども、この回路が過活動に陥っているケースが多いですね。
脳のエネルギーのかなりの部分がこの「雑念」に費やされていることがわかっているため、私はマインドフルネスこそが脳を休める「最高の休息法」なのではないかと考えています。

―つまり、なかなかじっくり机に向かえないお子さんも、マインドフルネスでこのDMNを鎮めさえすれば、集中して学習に取り組めるようになると?

そう考えられます。また、集中力アップという意味では、いわゆるお勉強だけでなく、スポーツやアートの世界でも効果が期待できます。実際、拙著『最高の休息法』に対して熱烈な反応を示してくださった読者のなかには、意外にもスポーツ指導に取り組まれている方が多かったんです。アスリートの世界というのは、やはり技術的な部分以前に、集中力やメンタルのコントロールが重要です。私の患者にもスポーツをやっているティーンエージャーがいますし、私自身もトライアスロンをやっていますので、その点については大いに共感します。