こうして事前に職場のイメージがつかめていることは、その人材を採用した“あと”にも響いてきます。海外のリクルーティング研究の知見でも、「その組織で自分が働くイメージ」を事前に持っているスタッフのほうが、入社後にその会社に定着する率が高くなることがわかっています。

また、人づて採用のほうがより定着率が高くなることも指摘されており、近年は、SNSなどを用いた求人などが注目されています。アカデミックな成果としても、「人づて採用」はかなり確度の高い採用手法だということがわかってきているのです。

最大のメリットは
「信頼関係」の築きやすさ

このように、さまざまな利点がある人づて採用ですが、その最大のメリットは、紹介というステップを踏むことで、いい人材を採れる可能性が高くなることでしょう。

まず紹介する側のスタッフは、いい加減な人を引っ張ってくれば、自分に対する信頼が落ちますから、それなりにしっかりした人に声をかけようとします。つまり、スタッフに紹介されてやってくる求職者は、まず紹介者の“フィルター”をくぐり抜けた人材であるということが言えます。

店長としても、まずは優秀な人の知人・友人を採用したいと思うでしょうし、そういう人が連れてきた人材なら安心して受け入れられるのではないでしょうか?以前に行った店長座談会でも、ある店長さんはこう語っていました。

「やっぱり友人紹介での採用のほうが離職率も低いですし、有効だと思いますね。やたらめったら人を紹介してもらうというわけではなく、店長目線で『この人の紹介なら大丈夫だろう』と、ある程度信頼の置ける子に紹介してもらうのがいいですね。ですが、『できれば早く辞めてほしいな』と思っているアルバイトさんに限って、『友人を紹介したいんですが』なんて言ってきたりして、正直困ることもあります(笑)」

人の成長に関するアカデミックな研究の世界では、こうした信頼関係(専門用語でラポールといいます)を構築するステップが、非常に重要だと考えられています。お互いのラポールがなければ、採用も育成もうまくいきづらいというわけです。その意味で、人づて採用は、ラポール形成という課題をクリアするすばらしい方法だと言えるでしょう。

「芋づる式離職」のリスクにも要注意

このように、一見いいことずくめの人づて採用ですが、もちろんメリットばかりではありません。この採用手法は友人・知人のネットワークをベースに成り立っているため、ひとたび職場や店長に対する評価が下落し不満が蓄積すれば、複数のスタッフがまとめて離職してしまうケースがあるのです。

人的ネットワークの中心となっていたAさんが辞めたことで、Bさん、Cさん、Dさんも連れ立って辞めてしまい、いきなり店長が窮地に立たされる――そんな芋づる式離職のリスクは念頭に置いておく必要があるでしょう。

また、「スタッフの紹介だから…」といって、あまり深く考えずやみくもに人を採りすぎた結果、店長の言うことを聞かないスタッフが増えてしまい、職場が回らなくなったという例もあるようです。人のネットワークはあくまでもきっかけで、やはり最終的な採用の可否は、店長が自らの目で判断していくべきでしょう。その際には、やはり「誰から紹介された人なのか」が大きな判断基準になると思います。