毎日約8000本の列車を運行するイタリア最大の鉄道会社Trenitalia。長靴型のイタリア半島にくまなく路線を張り巡らせており、総距離は1万6724kmを誇る。年間2億人の旅客を運ぶ足だ。同社は現在、5年がかりで予測メンテナンスのプロジェクトを進めている。コスト削減の先に見据えるのは、Uberなどのシェアリングエコノミーが運輸業界にもたらす激動期を生き残るためのデジタル戦略だ。

固定メンテナンスから
オンデマンドへ

SAPが主催した、伊最大手鉄道会社のIoTメンテナンス導入説明イベント。フラッグシップ車両の「Frecciarossa 1000」を貸し切ってローマからピエトラルサに移動しながら行われた

 センサー、ネットワーク(クラウド)、データ分析基盤で構成されるIoTを何に活用するかは様々だが、センサーから機器の情報を集めて故障が起こる前に修理や対応ができる予測メンテナンスは、産業界におけるIoTのわかりやすい事例だ。

 どの鉄道会社にとっても車両安全のためのメンテナンスは欠かせない作業だが、約240の高速列車、約800の中距離列車、それに約600の貨物列車を持ち、イタリア全土を運営するTreitaliaにとって、列車のメンテナンスはこれまで、一定の時間がくるか、一定の走行距離に達したら点検に回すという固定メンテナンスだった。当然予期せぬことは起こるし、点検中の列車は売り上げをもたらさない負の資産となる。

 ちょうど社をあげてデジタルを積極的に活用しようという機運が高まっており、IT部門が目をつけたのがメンテナンスだ。技術部門トップのMarcos Caposciutti氏は、「固定されたメンテナンスから状況に応じたメンテナンスに変えたかった。単にメンテナンスを減らすのではなく、作業を改善するのが目的だ」と述べる。

 着手したのは2014年、メンテナンスを管理するソフトウェア「Dynamic Maintenance Management System(DMMS)」を開発した。業務アプリケーション大手SAPの予測保全ソリューション「SAP Predictive Maintenance and Service」を利用しており、電車からのセンサーデータ、機器の稼働状況を遠隔にいるメンテナンス担当者がすぐに把握できるようにするもので、プロジェクトの中心となる。

 DMMSの最初の対象となる列車は、「Frecciarossa 1000」だ。Frecciarossaは、時速約300kmと高速なことから、“赤い矢(Freccia(=矢)Rossa(赤))”という名称がつけられた同社のフラッグシップ列車だ。毎日141本が走っており、Frecciarossa 1000はその最上位機種となる。車両につけられたセンサーがモーターの温度、圧力、スピードなどの基本データを定期的にビックデータシステムに送る。