フォロワーの喝采がパイオニアの勇気になる
1973年愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)に進学し、航空部で「ものづくり」と「空を飛ぶこと」に魅せられる。当時、躍進めざましいソフトバンクの採用試験を受けるも不採用。東京都立科学技術大学大学院修士課程修了後トヨタに入社し、同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトを経て、トヨタF1の開発スタッフに抜擢され渡欧。帰国後、トヨタ本社で量販車開発のマネジメントを担当する。そのころスタートした孫正義氏の後継者育成機関である「ソフトバンクアカデミア」に参加。孫氏の「人と心を通わせる人型ロボットを普及させる」という強い信念に共感。2012年、人型ロボットの市販化というゼロイチに挑戦すべくソフトバンクに入社、開発リーダーとして活躍。開発したPepperは、現在のロボットブームの発端となった。同年9月、独立のためにソフトバンクを退社。同年11月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。著書に『ゼロイチ』(ダイヤモンド社)
茂木 まさに過酷な環境下で生き残って、強くなったという物語ですね。でも、全員が全員そうなれるわけではない。こういう話をしていると「変人讃歌」だと思われて、変人じゃない人は関係ないと思われてしまったりする(笑)。あまり共感を得られないんですよ。
林 そうでしょうね(笑)。でも、もちろん「変人じゃない人」ってめちゃくちゃ重要なんです。それこそ、分業、役割分担ですよね。尖ったところがない人、一般的な人は、尖った人たちを活かすマネジメントの立場に立てばいいんです。全員が変人では、組織が成り立たないし、イノベーションも起こせないですよ。
茂木 そうですよね。ニューロティピカル(神経学的に典型的な発達をした人)は、変人を活かす方向に能力を使えばいいんです。
林 以前、脳科学者の中野信子先生と対談した時に、日本人は「自分基準で意思決定をすることに幸せを感じる人」が27%で、「前例やルールに従いたい傾向の強い人」が73%という調査結果があると聞きました。つまり、パイオニア気質の人が27%、フォロワー気質の人が73%ということですよね。これが、アメリカだと半々くらいになるそうです。フォロワー気質の人が多いから、どうしてもパイオニア気質の人のことは理解できないし、その芽をつぶしてしまいがち。でも、そういう人を活かしたほうがいいという考え方が社会に浸透すれば、すごくうまくまわる比率だと私は思います。
茂木 ほう、おもしろいですね。僕は、そのフォロワーの性質が、アメリカと日本で違うと感じるんですよ。1984年に、アップルがマッキントッシュを発表したときの動画がYouTubeに上がっています。それを観ると、マッキントッシュについての発表が終わる少し前から、すごい歓声が上がってるんです。その聴衆の反応の速さに感動します。アメリカ文化のすごいところは、本当にいいものに対して、素直かつ熱狂的にフォローするところだと思うんです。
林 それは、やっぱりパイオニアとフォロワーが半々、ということも関係しているでしょうね。聴衆の中にも、自分自身で道を切り開いてきた人がいる。だからこそ、壇上のパイオニアの挑戦に素直に共感して、拍手喝采をおくるのでしょう。
茂木 たしかにそうですね。
林 パイオニアとフォロワーが半々というのが、アメリカの新しいものへの反応のよさを生んでいるとすれば、日本はどうか?私は、パイオニアとフォロワーが3:7というのは決して悪くないと思うんです。アメリカほど反応はよくないかもしれませんが、7割のフォロワーが共感してくれたらアメリカよりも大きなパワーが生まれると思うからです。
茂木 なるほど。たしかに、それはあるかもしれない。とはいえ、3割のパイオニアが、もっと元気にならないといけないですね。
林 そうですね。それで、パイオニア、つまり自分が道を切り開く側になるかどうかは、経験で決まると思うんです。「気質」と言いましたが、これってかなりのところが、学校教育で植え付けられていると思うんですよ。小学校から大学の学部生まで16年間、「答えがあることを効率的に解きましょう」、そして「危ないことはやめましょう」ということを徹底的に教えられる。そうしたら、生来の気質と関係なくリスクがとれなくなっても不思議じゃない。むしろ、失敗すること、怪我することの意義を教えるべきだと私は思います。
茂木 教育論の一つとして、なるべく早く失敗をさせるというものがあります。たしかに、失敗しないまま16年間生きてきたら、リスクはとれないでしょうね。
林 自分の次の一歩を変えるのは、自分の経験だけです。もっと多様な経験をするような教育がこれからの学校には求められると思います。
(次回へ続く)