商売はすべて「パターン」である
三田 思い出すのは、小学校2年生くらいのときに市の図画コンクールがあって、賞をとったんですね。「表彰式やるから、行きなさい」って言われて行ったんですよ。会議室で表彰式やって、そこに絵が貼ってあるんですね、受賞者の。で、それを1枚ずつ、選考委員みたいな人が解説していくんですよ。
それで、ぼくの絵のときに、選考委員長みたいな人が「これは、いいんだよ」とかって言ってるわけですよ。その絵がね、町をちょっと上から見た感じの絵で。真ん中に煙突をボーンと描いてたんですよ、町の真ん中に。チョチョッと描いてたんですね。そうしたら、「この煙突がいいんだ!」みたいなこと言うんですよ。ぼくは「あぁ、なるほどな」と思ったんですよね。
「あぁ、こういう絵を描きゃ大人は喜ぶんだな」と。だいたいそこからね、似たような絵ばっかり描いてたんですよ。そうしたら、ボンボン賞もらえるんだよね(笑)。「あ、このパターンだな」ってね。
――「こういうのがウケる」っていうのを自分の中でパターン化して……。
三田 その光景は覚えてますね。「この煙突がいいんだよ」とかって言うんだよね、一生懸命。「ははーん」と思って(笑)。
――そういうことが原体験としてあるわけですね。
三田 そうですね。大人って子どもに元気を求めるんですよね。「元気の象徴」みたいなものを欲しがるんですよ、絵の中に。そこに、なんかドカーンと描いてると「あぁ、これは元気があっていい!」とか言ってね(笑)。なんかそんなことだと思うんですよね、自分が大人になって思いますけど。
だって、大人だってめんどくさいじゃないですか、「子どもの絵を選評してくれ」なんて言われても。「うるせぇ」って言って(笑)。どうでもいいんですよ、そんなの。どこの子かも知らないし。だから、それを見て、なんか「あ、これ、元気があっていいな」っていう、そんな程度ですよ。
――そういう「これはウケるだろう」と思って、その公式なり、パターンなりをストックしておいて使うっていうのは、今も生きてる感じですか?マンガを生み出す作業に。
三田 そうですね。やっぱり商売って、基本的に「パターン」なんです。実家で商売やってるときに、自分なりに「あ、こうするんだな」って答えを見つけたんですね。
たとえば、ポロシャツを夏に100枚仕入れるじゃないですか。で、売れるのは、だいたい白とか紺とか、そんなもんなんですよ。ただ、白と紺だけ置いてても売れないんですよね。赤とかオレンジとか黄色とか、ちょこっとないとね、売れないんですよ。紺と白だけ置いてても、お客さん買わないんです。
ほんとは白を売りたいときでも、赤をちょっとすすめたりするんです。「いい色ですよ」とかって。赤なんて買わないだろうと思いながらもね。お客さんは「でも、うーん、白で」って言って、白を買っていくんです。「白、白」って言ったって、お客さん、「えぇ?他の色ないの?」ってなるんですよ。
――赤を買わせるために赤を置くんじゃなくて、白と紺を売るための……。
三田 そうそう。
――お客さんは自分で選んだと思いたいですもんね、白を。
三田 当然、白しか買わないんですよ、ポロシャツって(笑)。
――そうですね(笑)。
三田 白だけ仕入れておけばいいんだけど、それだとダメなんですよね。赤は余っちゃうから、あとで自分で着るんです(笑)。
――ご実家の洋服屋さんで商いをされてたときから、そういうパターンを見つけていたんですね。
三田 仕組みが大事なんですよね。仕組みさえ押さえておけば、なんとかなるって言うかね。
誰も選ばないテーマを選ぶ
――三田さんの作品は『インベスターZ』はもちろん、『エンゼルバンク』や『砂の栄冠』などお金に絡んだものが多いなと思います。「お金」って、テーマとして三田さんの中で大きいんでしょうか?
三田 テーマというか、誰も選ばないんですよね。「お金」って。あんまり題材として使わないので。基本、この世界は人がやらないものをやらなきゃならないわけです。
一方で、マンガでもなんでもそうだと思うんだけど、キャラクターが大事っていうことは、一番の大原則なんですよ。ところがキャラクターを、素の人間を、素のままの状態で説明して読者にわかってもらうって、すごく難しいんですよ。よっぽどのスーパーキャラクターでもない限り、読者にわかってもらえない。だから、キャラクターだけを考えても、なかなかマンガって、スタートできないんです。
だから、何かしら1つのアイテムというか道具を持たせることによって、キャラクターを説明するのが有効なんですよ。その説明する道具として「お金」を使う。「お金」っていう題材を1つキャラクターに付けてあげると、そこで1つの特色が出るし、読者はそのキャラクターを理解しやすくなるんですね。
――高校野球の話に「お金」って一番出しちゃいけない道具のようにも思えます。
三田 高校野球ってプレーをすることが大原則なんですが、プレーだけのマンガって世の中いっぱいある。今からね、そんなプレーだけで特徴を付けるなんて、難しいんですよ。魔球は描けない時代なので。だから、プレー以外で、もう1つ何かしらのアイテムをくっ付けることによって、キャラクターを説明しやすくなる。それが、読者にとって「フック」になるんですよね。
だから今、雑誌で「高校野球描きたい」なんて言ったって、編集長は「うん」と言わないですよ。よっぽど、マンガ家が「元PL学園です!」なんて言えば「それはいいかも」って興味持ってくれるかもしれないけど、そんじょそこらの新人が「野球マンガ描きたい」なんて言ったって「えぇ?今ウケねぇじゃん、そんなの」とか言われて終わりですよ。
続きは18日(金)に公開します。