基本的に上海市の「固定資産税の実験導入」では、2011年以降購入した住宅が課税の対象となり、それ以前の購入については免税になる。また、買い替えで取得した住宅や「子どものために」あるいは「結婚のために」という動機で取得した住宅も免税となる。さらには、国が認める「重要人材」が取得した場合も、その保有における固定資産税は免税になる。

 実際、ほとんどのケースで納税の必要がなくなるのがこの固定資産税なのだ。「まじめな納税者は逆に『国家権力を恐れる臆病者だ』と馬鹿にされているのが実情」(上海市在住の会社員)だという。

土地は国家のもの
固定資産税は国情に合わず

 他方、「そもそも論」で言えば、固定資産税は「中国の“国情”に合うものではない」と言われている。上海の不動産研究の専門家が「土地は国家のものであり、住宅購入時に70年間の“使用料”を払っているという認識を持つ中国の購入者からすれば、さらに住宅保有において課税されるのはおかしいと思っているわけです」と指摘するように、購入者の有する権利形態が「所有権」ではなく「使用権」であるところに最大の矛盾がある。

 中国全土が財政難に陥っており、当局は八方手を尽くして課税を強化しているのが近年の傾向だが、それにもかかわらず、住宅資産保有に関わる課税が進まない。それは上述の「国情に合わず」という理由が存在するためだ。もちろん、これ以外にも住宅在庫の処理の進行や不動産を中心とした経済活性を優先させるがため、「課税はそれへのブレーキになる」という懸念がある。

 その一方で、中国の社会経済学者の何清漣氏によるこんな視点に注目したい。

「固定資産税の負担は2戸以上を保有する富裕層が対象となるが、中国で2戸以上所有する富裕層の過半は公務員が占めている。彼らは、固定資産税が本格導入となれば、自分に負担が重くのしかかることを知っている。こうした連中は政策をコントロールし、導入阻止を目論んでいる」

 確かに、何氏の指摘どおり、国有土地の売却で私腹を肥やしたのが中国の地方公務員だった。

 上海では「来年は固定資産税が強化されるらしい」「いや、さらに3年は繰り延べになる」など情報が交錯する。この秋には上海市から「固定資産税を納めましょう」との「納付の催促」が発せられた。しかし、上海市民が一斉にこれに応じることはなかった。「当局は固定資産税に手出しはできまい」と足元を見透かしているからだ。

「土地は国有」という制度下で、「国情に相反する」を理由に、先送りにされてきた課税制度。中国政府が課税に強気にならないのは、もうひとつ理由がある。

 何清漣氏はボイスオブアメリカへの寄稿で、「代表なくして課税なし」というアメリカ独立戦争時のスローガンを上げながら「中国人が納税を嫌がるのはそこにまったく権利が生じないからだ」と断じる。「納税者」の概念を国民に与えてしまえば、そこに権利が発生してしまうからだ。

 格差社会の元凶となった中国不動産市場。歪みを持って発展したこの市場と富の再分配に、もはや打つ手はないようだ。