常識を疑うことが、閉塞状況にある日本企業には必要である。少しずつの変化には、わたしたちはあまり抵抗を感じることはない。そして、緩やかな変化の結果もたらされた均衡状況は、安定だと思い込んでしまう。しかしながら、安定はしばしば競争力の低下につながる。

 顧客ニーズへの対応のため、日本企業は多品種少量生産化を志向した。様々な生産技術革新を通じて、多品種少量生産であっても、大量生産とかわらないほどのコスト(製造原価)、リードタイム、品質、生産性などを実現してきた。

 血のにじむような努力の積み重ねの結果として、競争力ある多品種少量生産体制が確立された。これはまぎれもない成功物語である。しかしながら、この成功が静かに日本企業を蝕み始めていることに、気づいている者は少ない。

 どのような問題に私たちが今直面しているかを、以下に示そう。

(1)研究開発―開発の質に
   大きな悪影響を与える

 多品種少量生産を目指すなら、当然、開発品目数は増加する。多品種少量生産の定着により、製品寿命も短くなった。したがって、開発に与えらえる時間も短くなっている。

 製品寿命と開発時間に相関があると仮定しよう。10年前と比較して、製品寿命が3分の1になり、新規開発品目数が5倍になっていて、開発要員数と開発予算額に変化がないとすれば、1品目に許容される開発要員1人当たり開発時間数は、10年前の15分の1になっている。これは、かなり控えめに見た数字である。

 CADの高度化、モジュール設計の進化、部品の共通化・共有化などがあるので、実際の開発要員1人当たり開発時間数は、10年前の15分の1以上あると思われるが、10年前ほどの時間が与えられているとは思えない。また、1品目に許容される平均予算額も減少することになる。