「ベストの環境」をつくるのに全力を注ぐ
もちろん、この3つだけでは、グローバル人材以前の、人としてあるべき人格の形成には至らない。3つの指針を基盤として支える他の指針――常に「ありがとう」と感謝する習慣、相手の立場、特に弱者を理解しようとする姿勢、学習の習慣づけ、自制心を養う躾など――は「三つ子の魂百まで」であり、早いうちから子どもに身につけさせることは言うまでもない。また、子どもを信頼し、無償の愛を実感させることで育まれる自己肯定感は、生涯揺らぐことなくその優れた人格を支え続ける。
パンプキン氏はこう振り返った。
「最も大切なのは、身近な大人が口だけでなく、実践することです。
私は在日韓国人の3世で、社会のマイノリティーとして育ちました。だから私は、常に社会的弱者の立場に立って物事を考えられるようになりました。弱者に寄り添う心をそばで感じていたからか、我が家の子ども達は病気や障がいのあるクラスメイトに自然と手を差し伸べられる優しい子に育ちました。
また、捕まえるのも大変だったわんぱくな息子たちに『1日1時間、お母さんと勉強したら、優秀なお友達と肩を並べられるくらい賢い子にしてあげる』と説得し、二人三脚で勉強しました。息子たちは遊び盛りで、勉強時間が絶対的に足りなかったので、私が忙しい合間を縫って塾の問題をすべて解き、時間あたりの勉強効率を高めるよう努めました。
この努力が報われ、息子たちは進学校に合格しました。そこには高い目的意識を持って努力する仲間がいました。私は何としても、この『仲間から良い刺激を受けられる環境』を子ども達に贈りたかったのです。
勉強は強制しても逆効果です。けれども、だからと言って無条件の放任も意味がありません。子どもをやる気にさせる仕掛けをつくるには、大人も努力しなければなりません」
「よい師に出会うこと」が一生を左右する
ただし、上述のような教育法をどこまで実現できるかは、家庭環境による部分もあるだろう。「だからこそ」と二人は言葉に力を込めて言った。「学校の先生の役割が大きいのです」
キム氏は講演を次のように結んだ。
「『学力の経済学』の著者である中室牧子先生が仰るには、学校の先生というのは子どもの教育格差を縮めることができる稀有な存在である、と。確かにさまざまな家庭の事情があって、親の意識や資質は周囲からはコントロールできません。ただし学校で、自分の人生のことを本気で考えてくれる先生に出会えたら、子どもはそこを起点に多くを学び、成長していくことができます。
次世代を担う子どもたちが、不確実な未来を生き抜く力を持ち、幸せな人生を切り開けるように、この本の内容は、子育て中の親御さんだけではなく、子どもたちを指導する立場の方々にとっての指針になってくれたら、これ以上の喜びはありません。
子どもを持つ人、孫を持つ人、生徒を持つ人が、「将来、その子どもたちに感謝される育て方」を知ることの、一助になれば幸いです。(記事:加藤紀子)