人生においては、個人の努力だけではどうしようもない出来事がしばしば訪れます。思いもかけない大病や事故であったり、不幸な巡り合わせの結果としての貧困でなど。年金、医療保険をはじめとする社会保障制度は、個人の生活設計の根幹をなす部分であり、あるときは支えられ、あるときは支える側に回るといったものです。かつて支えられた人が、支える側に回ることを誇りに思える制度であってほしいと切に願います。

 しかし、どうも雲行きが怪しくなっているようです。「口を出すが、金は出さない」という態度を、国は明確に打ち出しています。特に医療分野はそれが顕著に現れているように思われます。医療従事者の抱える問題は、日本に住む私たち自身の問題でもあるという認識を、広く一般に共有することが重要です。医療従事者と患者が分断された現状を突破し、お互いに知恵を出し合って、少子高齢社会における持続可能な制度の構築をしていくことが喫緊の課題です。

公的医療保険に
対する無関心

 毎日のように民間医療保険の広告宣伝が新聞、テレビ、雑誌などを通じて生活者に届けられています。このような情報に晒されていると、「やっぱり民間医療保険に入っておかなくては」と思いがちです。それと同時に「健康保険って、大した医療が受けられないのか」と、すでに年収の中から多額の保険料を払っているにもかかわらず、公的医療保険に対する期待が低くなってしまうようです。