アウトプットの質が落ち
「新しい技能を身につける力」も落ちる

 とりわけビジネスシーンにおいては、睡眠不足によって、話す、書く、といった「アウトプット」の質が大きく落ちることは非常に大きな問題です。

 一般的に、アウトプットは、インプットよりも高度な情報処理作業が求められます。本を読んだり音楽を聴くことは、「情報を得て理解する」という1つの作業で済みますが、たとえば「話す」には、「相手の話を聞いて理解する」「自分の中で情報を整理する」「言葉を組み立てて話す」という多様で複雑な作業が含まれています。書くにしても話すにしても、他人に対して情報を発信することですから、そのレベルの低さが他人にモロに伝わります。普段は頭脳明晰なキレキレの人であっても、睡眠不足が続けば、仕事のできない、アタマの悪い人になってしまうということです。

 また睡眠不足は、「新しい技能を身に着けにくくさせる」というデータがあります。ハーバード大学の睡眠に関する研究で、「新しいことを身につけるには、覚えたその日に6~8時間眠るのが良い」という実験結果が出ています。それによれば、「キーボードのタイピング、運動課題を用いた繰り返し練習による成績向上効果および睡眠による成績向上効果を確かめたところ、繰り返し練習でもある程度成績は向上するが、睡眠後はさらに著しい向上が見られた」とされています。つまり、新しい技能を自分の中に定着させるには、ひたすら努力して練習するだけではダメで、その後にしっかり睡眠を取ることが必要だということです。

100%の能力を取り戻すためには
週末に「睡眠負債を繰り上げ返済」する

 睡眠不足の状態が続き、本来の能力を遥かに下回る状態で仕事をし続けていると、100%で仕事する自分を忘れていきます。つまり、「アタマが悪い状態」に慣れてしまうのです。本当の自分は、もっとできるはずなのに。

 では、もう一度100%の状態に戻すためにはどうすればいいか。睡眠不足で慢性疲労状態になっているのに、コーヒーや栄養ドリンクを飲んで「その場しのぎ」を繰り返し、何とか乗り切っている人も多いのではないでしょうか。それでは、毎日キャッシングマシーンでお金を借りているようなもので、負債がどんどん溜まっていく一方です。一度、借金を「全額返済」する必要があります。

 そこで私は、思い切って1週間ほど睡眠重視の生活サイクルに切り替えることをおすすめしています。毎日残業しているのなら、次の1週間だけは何があっても定時に帰る。1週間が大変なら、せめて金曜は残業せずに帰り、金土日の3日間を睡眠重視のサイクルで過ごすだけでも、十分に効果があるはずです。

 もちろん寝すぎてはいけません。3日間、平日の平均睡眠時間より1、2時間多く寝ることで、「睡眠負債を繰り上げ返済する戦略的な週末」を作るのです。そうすれば、次の月曜は100%に近い状態に持っていくことができますから、「睡眠がこれほどパフォーマンスに影響するのか!」と気づき、睡眠を重視した生活サイクルの重要性を体感できるでしょう。

 人間は、睡眠不足の状態でも、ある程度の期間は耐えられます。しかし、どこかで必ず反動がきて、血圧が高くなったり、メンタル面で支障をきたすといった悪影響が現われます。最近では、睡眠不足と認知症についての研究も進んでいますし、薬の副作用として、昼夜が逆転したり興奮状態になったりして、睡眠を妨げられることもあります。

 拙著『一流の睡眠』でも触れていますが、睡眠不足は、ビジネスパーソンの基礎体力とも言える集中力、記憶力、思考力の低下を引き起こします。そういった状態で仕事をしていれば、周囲から能力がないと見なされ、成長も昇進も見込めません。睡眠不足は、私たちを、生物としてだけではなく、仕事人としても耐えられなくさせてしまう「悪癖」だと言えるのです。

 ビジネスパーソンとしての長いキャリアを歩むにあたって、睡眠の重要性と、睡眠不足の悪影響を念頭に置いておくだけで、先々のあなたの結果は大きく変わってくるでしょう。