書籍『一流の睡眠』では、忙しいビジネスパーソンが仕事のパフォーマンスを落とさないための眠り方について、32の具体策を紹介しました。本稿では、逆の視点から、「十分な睡眠がとれていないと、どれくらいパフォーマンスが落ちるのか?」ということについて考えてみたいと思います。
(構成:山本奈緒子 聞き手:今野良介)

あなたは実力の「30%」しか
出せていないかもしれない

 絶好調のバリバリで能力をフルに発揮できるベストな状態を「100」だとすると、睡眠不足のとき、私たちの能力はどれくらい落ちるのでしょうか。私自身のキャリアと、臨床医としてたくさんの患者さんを見てきた経験からすると、「30」くらいまで落ちるといっても過言ではありません。

 私は臨床医であると同時に、医療コンサルティング会社を設立し、医療機関の経営支援やヘルスケア企業への医学的なアドバイザー業務を行なっています。数年前、ある会議に、ところどころコメントを求められるオブザーバーとして出席しました。ところが、このときの私は慢性的な睡眠不足が続いており、失礼ながら、目を開けているのも大変なほど、究極に眠たかったのです。

眠たいと「バカ」になる

 さて、この「超・眠たい私」がどういう状態になっていたか。

 まず、頭に入ってくる会議メンバーの話が断片的になります。カクンと頭が落ちるほどではなくとも、マイクロスリープと呼ばれる一時的な睡眠状態に何度も陥り、ところどころ記憶が飛んで、話し手の内容が一貫性を持って理解できないのです。だからと言って、話し手に「今の話、もう一回言ってくださいませんか?」などと言えるはずもありません。その方の話が非論理的であるわけではなく、単に私が眠たいのが理由ですから。

 さらにマズいことに、睡眠不足で眠い状態だと、聞く→理解する→話す、という思考プロセスのスピードが極端に低下します。話し手の話に反応しようとしても、相手の話を理解して考えて返答するという一連の流れに必要以上の時間がかかるため、「話す」に到達する頃にはすでに話題が2つほど先に進んでいる、ということになってしまうのです。

 もし、断片的な情報を無理やり組み合わせて話そうとすれば、ピントのズレたコメントになって、相手を困惑させてしまうでしょう。もう別の話に移っているのに突然2つ前の話を始めたら、場を乱すだけでなく、「空気を読めない人だ」と思われるかもしれません。

 さらに悪いことに、そういう状態のまま「気の利いたことを言わなくては」などと思って無理に発言しようとすると、「逆説の接続詞」を使いがちになります。「でも」とか「ところで」とか「それはそうかもしれないけど」から話を始めたくなるのです。自分が話についていけていないことがわかっているので、無理やり自分の発言に話題を引き寄せようとするためでしょう。ご存じの通り、逆説の接続詞は、相手に良い印象は与えません。

 さて、睡眠不足のこのような状態が他人の目にどう映っているかといえば、端的に言って「アタマの悪い人だな」という印象を与えます。私の場合は会議のオブザーバーでしたが、同じことが、面接や商談の場でも起こり得るでしょう。ビジネスパーソンにとって、これは致命的です。

眠い自分がどう見えているのか、自分ではわからない

 ちなみに私はその会議の間、自分の「アタマの悪さ」を露呈することを防ぐべく、できるだけコメントを求められないように、うつむいて黙っていました。しかし、話さないとますます眠くなります。眠気を我慢しながら黙っているという、最悪の状態でした。大事な仕事がある前日はしっかり寝なくてはいけないと、深く反省した一件です。