もちろん、権威主義的で統制的なドイツのやり方が、行き過ぎだったのか、「移民」「緊縮財政」に対する怒りが沸騰し、ドイツの戦略は大きく揺らいでいるのが現状だ。そして、そんなドイツに接近しようとする大国が現れる。ドイツによって「負け犬」となったロシアである(第142回)。

 ロシアの地政学者であるアレクサンドル・ドゥーギンは、日本語の著書が翻訳されていないため、ほとんど日本では知られていない。しかし、その著書はソ連崩壊後のロシアで、初めて刊行された地政学専門書として、ロシアで大反響となったものである。

 ドゥーギンは、ドイツ地政学のカール・ハウスホーファーの理論を基に、「『ユーラシア帝国』が、大西洋主義の覇権に対抗して連携を呼びかける諸国は、ドイツ、イラン、そして日本である」と主張する。そして、「日独をロシア側に引き寄せるためには、両国に領土問題で譲歩すべき」だとして、「日米安保の破棄」を条件として、北方領土の返還を提案している(黒岩、2002)。

 現在のウラジーミル・プーチン政権の中東への積極的関与、日本への急接近と経済協力の進展、そしてプーチン大統領の「日露の信頼関係を阻害しているのは、日米安全保障条約」という意味の発言を見ると、ロシアの戦略は、ドゥーギン地政学と一致しているのは明らかだ。とすれば、ロシアが次にドイツに接近していくことになる。

 ロシアは、英国と長年にわたり、激しい対立関係にある(前連載第59回)。その英国がEUから離脱すれば、ロシアはドイツに接近するのを妨げる障害がなくなることにある。また、トランプ大統領とメルケル首相が激しい批判合戦を展開するなど、今後米国とドイツの関係も、悪化することが考えられる。プーチン大統領がこの好機を逃すわけがない。

 そしてロシアにとってドイツ、日本、イランと連携する目的は、英米「シーパワー」に奪われた東欧という勢力圏を奪い返すことはもちろんだが、それだけではない。「一帯一路」構想を掲げ、ユーラシア大陸に巨大経済圏を築こうとする中国に対する対抗の意味もある(第120回・p4)。

 一方のドイツだが、現在は「グローバリゼーションの最後の砦」というイメージだが、EU諸国に対する緊縮財政や移民政策を厳格に強いる姿勢からわかるように、元々権威主義的、統制主義的な国柄だ。実はロシアとは親和性があり、歴史的に見ても、近づいたり離れたりを繰り返す複雑な関係だ。米英との対立は、ドイツを一挙にロシアに接近させる可能性がある。ドイツが持ち前のしたたかさを発揮すれば、ロシアと中国を天秤にかけるような駆け引きをするかもしれない。