「経済オンチの大統領」に不満が蓄積

クリントン氏敗北の要因については多くの論点が寄せられているが、政治について素人である私がそれを云々するのは適切ではないだろう。ただ、経済動向や金融市場を分析し予測する専門家としては、言えることが一つある。

それは、クリントン氏が敗北した大きな要因は、「オバマ大統領の後継者」という位置づけにあったのではないかということだ。とくに致命的だったのが経済政策だ。オバマ政権の経済失政があったからこそ、有権者の多くは「クリントン氏を選んでも、自分たちの暮らしはよくならない」と感じていた。この経済政策の選択ミスが、多くの有権者から忌避される原因になったのではないか。

2008年のリーマンショック後の金融・経済の大混乱期に、「チェンジ」を掲げて大統領に就任したオバマ氏は、就任直後には経済危機を収めるための政策対応を果敢に実現させていた。オバマ政権が大手銀行の国有化、インフラ投資などの財政支出拡大を決断する一方、バーナンキ議長率いるFRBも、アグレッシブかつ迅速な大規模金融緩和を行い、リーマンショックの痛手は大統領就任1年目の2009年から早くも和らいでいった。その後も金融市場は不安定だったが、2010年半ばから雇用が増えはじめるなど、未曾有の危機とされた状況は次第に回復していった。

ただ、その後のオバマ政権の経済政策は非常にまずかった。経済成長率を高める手立てを自ら講じることはせず、歴史的不況からの回復については、FRBの金融緩和に丸投げの状況が続いた。単に無策というだけならまだしも、世論に迎合して金融セクターへの規制強化を優先的に進めるなど、不況を長期化させかねない策をとったことも問題視されていた。

その結果、どういうことが起きただろうか?米国経済が正常な状態に近づき、ようやくFRBが政策金利をゼロから引き上げたのは2015年末、つまり、リーマンショックが起きた2008年から7年も過ぎてからのことだった。

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7年間もほぼゼロ金利の状況が長期化したことは、リーマンショックがもたらした甚大な被害を考えればやむを得なかったとも言えるが、オバマ政権の無策・失策のせいで経済回復にかかる時間が引き延ばされ、本来避けられたはずの失業が生まれてきたとも言える。リベラルな政策運営に期待していた米国民たちのあいだでは、この期間中に相当の不信・不満が蓄積されてきたに違いない。