「最強のオールマイティあいさつ」で乗り切ろう!

齋藤 孝(さいとう・たかし)
1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション論。テレビ、ラジオ、講演等、多方面で活躍。
著書は『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『読書力』『コミュニケーション力』(岩波新書)、『現代語訳 学問のすすめ』(ちくま新書)、『質問力』(ちくま文庫)、『語彙力こそが教養である』(角川新書)、『雑談力が上がる話し方』『雑談力が上がる大事典』(ダイヤモンド社)など多数ある。
撮影/佐久間ナオヒト

 どんなふうにあいさつをしていいのかわからない。

 そんなときのために、私たちは最強のオールマイティ・ワードを持っています。

 それは「あ、どうも」です。

 さらに、笑顔と軽い会釈をプラスすれば完璧です。

 居合わせた相手、ふと目が合った相手に対して、笑顔であいさつ、もしくは「ああ、どうも」と声をかけ、軽く会釈をする。
 これだけでもう、雑談の下準備はでき上がりなのです。
 そして、この声かけには雑談をはじめるきっかけ、雑談の導入だけでなく、もうひとつの重要な意味合いがあります。

 いくらなんでも「あ、どうも」は相手に失礼にあたるのでは?
 そう思った人は、声に出さないで、次のようにしてみてください。

 笑顔で会釈。心の中で「あ、どうも」。

 口パクで「あ、どうも」も有効です。
 相手の目をちらっと見て、ニコッとほほえんで会釈をする。

 たったこれだけです。

 笑顔のあいさつと会釈は、「私はあなたと打ち解けたい」
「気軽に話がしたい」という相手へのアピール、もっと言えば
「敵意はありません。警戒しないでください。胸襟を開いて仲良くしたいんです」
 という意思表示でもあるということ。

 たとえるならば、犬や猫が気を許した相手にお腹を見せるようなもの。
 ワンちゃんでも無防備にお腹を見せてクンクン言われると、「やあ、かわいいね」となりますが、「ウーッ、ウーッ」と敵意を見せられると、こちらも身構えてしまうでしょう。

 口をへの字にしたまま、ないしは口元を動かさない。
 これって体が固くなっている状態です。

 口パクで「あ、どうも」、ちょっとほほえみを見せる。

 これって体がほぐれているサイン。違いは一目瞭然です。
 ワンちゃんも人間も同じで、敵意を見せないまでも、無表情で何もしゃべらない人がすぐそばにいると、気づまりと同時に本能的な警戒心が生まれてしまいます。

 だから、こちらから軽い会釈と笑顔で「あ、どうも」と声かけて、敵意のなさや仲良くなりたい気持ちを提示してあげる。
 雑談のきっかけとしての声かけは、相手の警戒心を解くという非常に重要な役割を担っているのです。

 特別な言葉はいりません。
 ほんのちょっと、あなたが相手にサインを送るだけでいいのです。

 次回は雑談のステップ2「話す」について説明したいと思います。
(次の更新は2月23日予定です)

※この記事は書籍『会話がはずむ雑談力』の一部を、編集部にて抜粋・再構成しています。