限界効用逓減の法則からわかる「増産」の考え方

 限界効用逓減の法則を知っていれば、やみくもに商品を生産して在庫を積み上げるよりも、どこまで売ればいいかを予測し、市場の状況に応じて時間軸を立てることが重要だとわかる。商売の基本となる考え方でもある。

坪井賢一(つぼい・けんいち)
ダイヤモンド社取締役、論説委員。 1954年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒業。78年にダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集部に配属後、初めて経済学の専門書を読み始める。編集長などを経て現職。桐蔭横浜大学非常勤講師、早稲田大学政治経済学部招聘講師。主な著書に『複雑系の選択』(共著、1997年)、『めちゃくちゃわかるよ!金融』(2009年)、『改訂4版めちゃくちゃわかるよ!経済学』(2012年)、『これならわかるよ!経済思想史』(2015年)、『シュンペーターは何度でもよみがえる』(電子書籍、2016年)(以上ダイヤモンド社刊)など。最新刊は『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』

 漫画の単行本(コミックス)の出版を例にして考えてみよう。コミックスには数十巻や100巻に及ぶ大長編があるが、多くの作品は10~15巻で終わっているように見える。

 コミックス第1巻の効用(満足度)は大きい。読者の満足度は最高位にある。第2巻も若干落ちる程度だ。第3巻、第4巻と続いていくと、効用は逓減し、やがて飽きてしまう。私の場合、10~15巻で飽きてしまう。作品自体も、10巻を超えると急激に質が低下し、15巻前後でストーリーが破綻してしまう作品が多い気がする。あくまでも個人的な経験だが。

 すると編集者(供給側)は、10巻、あるいは15巻くらいの長さを前提にして全体を組み立て、雑誌連載の期間を設定し、物語の山場を配置し、限界効用が下がりきる前に、完璧に終わらせることを考えればいいことになる(もちろん、メガヒット作はこの限りではない)。

 このように、むやみに巻数を増やすより、市場の状況(読者の嗜好の変化、限界効用の減少)を予測しながら時間軸を立てて生産計画を立てることが重要だ。これらを考えずに増産し、結局は在庫の山ということは現実でもよくあることだ。

 今回の「限界効用逓減の法則」のように、知っていると現実のビジネスに生きる経済学の知識はいくつもある。拙著『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』では、ビジネスに生きる知識だけを厳選して紹介している。もっと学びたいという人は、ぜひ参考にしてほしい。