基調講演にAAAS新会長が込めた
トランプ政権への皮肉

初日の会長講演の様子。会場は熱心に聞き入る200人以上の聴衆で埋め尽くされていた

 AAAS年次大会では毎年、初日の木曜日の夜、前年の会長が新会長を紹介し、新会長による基調講演が行われる。今年基調講演を行った新会長は、生物学者のバーバラ・ショール氏であった。前会長は聴衆に新会長を紹介する中で、オバマ全大統領などキーパーソンのアドバイザーを務めた経歴にも触れた。

 講演の中で、トランプ大統領に対する名指しでの直接的な批判はなかった。しかしショール氏は、ルーズベルト大統領が第二次世界大戦終結直後、基礎研究に対して重点的な予算投下を行ったことに触れた。また、新政権が優れた科学者のアドバイスを受けながら妥当な政策決定を行う必要性を、トランプ大統領が重要視している国防とも関連させながら示した。また、移民とビザに関連する喫緊の問題の数々については、懸念と危惧をストレートに示した。

 すぐに利益を産むわけではない基礎研究は、トランプ大統領が縮小したいターゲットの1つだ。ショール氏は、基礎研究の1つ1つは、将来のいつ、どのように実用化されるのか予測しにくいことを述べた。そもそも基礎研究の多くは、科学者の知的関心によって行なわれるものであり、最初から実用化が意識されることは少ない。アインシュタインの相対性理論も、そのような基礎研究の1つであった。

 しかし約100年後の現在、スマートフォンのGPSの中で、相対性理論は多くの人々に利便をもたらしている。ショール氏は、GPSと相対性理論のエピソードに加え、現在、実用化されている過去の基礎研究のいくつかを紹介し、基礎研究なくして産業の繁栄はありえないと明言した。これらをトランプ政権への皮肉と呼ばずして、なんと呼ぶべきであろうか。

 しかしショール氏は、トランプ政権への牽制・皮肉に深入りすることなく、市民と研究者たち1人1人が取るべき態度を呼びかけた。それは開かれた対話であり、民主主義的なプロセスを重視することであり、根拠を共有して議論を重ねることによる意思決定であり、気象変動など地球環境に関する関心を常に持つことであり、安全な水・栄養不足に陥らないだけの食料・医療へのアクセスなど先進国の「あたりまえ」から程遠い状況にある人々が世界に数多くいる事実を忘れず、解決のために行動しつづけることである。

 目的は、地球を健康で幸せな人々で満ち溢れた、健康な星にすることである。講演は「科学の力になろう」というメッセージで締めくくられ、会場を埋め尽くした数百人の聴衆は大きな拍手で答えた。