ご存知のように東京電力管内では、未曾有の震災による電力不足に陥っている。暖房を使う機会が減り、節電意識もある程度定着したため、この春は計画停電が実施されない日が続きそうではあるが、問題はこれからだ。

 日本の夏はもはや熱帯並みだ。どうしてもエアコンなどを使用することになり、猛暑時には東京電力管内だけで最大6000万キロワットもの電力需要がある。対して東京電力の見通しでは、今年の夏までに確保できる電力供給量は4500万キロワットという。

 経済産業省は電力消費の多い工場などを対象に電力総量規制を検討し始めた。日本の企業風土では、生活のリズムを乱し、時間外労働の増加につながるといったマイナス面が多いサマータイムも、ここにきて導入の可能性が見えてきた。

 少なくとも始業時間、終業時間を業種、職種などのグループ単位でずらすといった試みは行なわれるだろう。格好悪い、正式な場にそぐわないなどの理由でさほど定着していないクールビズも、この夏の「薄着をしよう」という空気のなかで浸透することになるかもしれない。「シエスタ」「ヴァカンス」が現実のものとなる可能性もある。

 ここまでは主に政府や財界が動くべきこと。一般人たる私たちは「なるべく電気を使わずに涼しく過ごす」しかない。お年寄りや子どもがエアコンを一切使わずに健康を害したなどというニュースは聞きたくはないが、健康な大人なら熱中症に注意し、体調と相談しながら「エアコンのない暮らし」にトライしてみてはどうだろう? すでにそう決意している人も多いはずだ。

 もともと夏を涼しく過ごしたい、電気料金を抑えたいというニーズのある国である。涼しい肌着、涼しいシーツなど既製の商品を取り入れるだけでも、エアコンの使用時間や設定温度にかなりの違いが出てくるはず。

 需要が伸びそうなのが「アイスノン」に代表される氷枕だ。寝苦しい夜は文字通り枕として使えるし、首に巻くタイプ、頭に巻くタイプなどバリエーションもある。人間は身体の一箇所を冷やすだけでも、かなりの涼感を得られる。繰り返し使える点もよい。

 日本人は工夫好きだ。「快適な暮らしのためのちょっとしたヒント」や「お得な話」を共有するのも大好きだ。今年の夏に向けて(デマをふくめて)涼しい夏のヒントがメディアに溢れ返るだろう。

 節電、節約だけではなく消費も大切! というのなら電気をなるべく使わない快適な生活を実現するために“も”お金を使おう。「電気=悪」ではないが、その使い方、つくられ方については本気で再検討する必要があった。このたびその機会を不本意ながら与えられたのだ。

 なにも「本気で頑張ればできる」「願えばかなう」といった精神論を説きたいわけではない。これまで他に向けられていたカネや時間、労働力を少しでも傾ければ、電気をあまり使わない涼しい夏や暖かい冬も実現可能なはずだ。

(工藤 渉)