英語メディアの伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、これを書いている4月26日はチェルノブイリ事故から25年を刻む日です。英語メディアに溢れる「チェルノブイリ」関連の記事の多くは同時に「フクシマ」を語り、日本ではこうなってはならない25年後の姿も見せつけています。
(gooニュース 加藤祐子)

教会の鐘が25回

 25年前の4月26日、モスクワ時間の午前1時23分に当時のソ連、今のウクライナでチェルノブイリ原発事故が起きました。『AP通信』によると、25年後の26日午前、ウクライナの首都キエフでは、教会の鐘が25回鳴らされたそうです。

 同じ「レベル7」の原発事故が進行中という状態でこの日を迎えるとは、世界の誰が予測したでしょう。あるいは、充分に予測可能だったのに充分な予測と対応をしてこなかったことが問題だったと言えるのかもしれませんが。

 「フクシマ」はチェルノブイリと同じ「レベル7」だが同じではないという専門家たちの意見は、前回のコラムでご紹介しました。確かに事故の規模や内容は違うし、被害の規模も違って欲しい(チェルノブイリの犠牲者数の数え方は、数百人から数十万人まで、調査主体によって諸説ありますが)。けれども「深刻な原発事故」というくくりの中で、フクシマとチェルノブイリが「同じ」であることには変わりはありません。

 ゆえに3月半ばからというもの、「Fukushima」は常に「Chernobyl」と並んで語られ警戒され、そして4月26日の「チェルノブイリ25年」を語る文脈の中に「フクシマ」は組み込まれてしまいました。福島第一原発の事故とチェルノブイリ事故を詳しく比較検討する記事は「レベル7」の時点でたくさん出たので、今週はチェルノブイリを振り返る記事の中に「フクシマ」への言及がある、という程度ではありますが。たとえばキエフ発の『AFP通信』記事は、チェルノブイリ25周年というこの日は福島第一原発の事故によって「恐ろしいほど身に迫る同時代性をもつことになった」と書きます。

 米紙『ニューヨーク・タイムズ』は「ゴーストタウン、終わらない核の厄災の目撃者に」というチェルノブイリ25年に関する短い記事の中で、「日本の福島第一原発でもう6週間も続いている大惨事は、チェルノブイリの記憶を呼び起こす」と書いています。「中でも、絶え間なく変わる情報の流れや、急激に上下する放射線量、日本の原発事業者や政府は情報をすべて開示しているのだろうかという疑念などは、1986年の事故での疑問点を思い出させる」と。

 チェルノブイリ原発が市内にある現ウクライナのプリピャチは事故から25年たった今も、鉄条網で囲われています。この『ニューヨーク・タイムズ』記事は、その鉄条網を乗り越えて中に入ろうとする男性の後ろ姿を写した写真を冒頭に掲げた上で、こう書きます。

 「ゴーストタウンと化したプリピャチには、かつて5万人が住んでいた。チェルノブイリ周辺の地域にはまだ警戒態勢が敷かれている。放置されたままの自宅からものを取り出そうとする、必死な、あるいは無謀な住民たちがいる。放射能のせいで慢性病を患う孫の面倒を見る男性がいる。こうした様々な姿は、日本で今回新たに学ぶこととなった教訓を、改めて強調するものだ。つまり人間は、技術をもってして素晴らしいことも恐ろしいこともやってのけてしまうのだと」。

 さらにこの記事は、「日本は当時のソ連よりも、あるいは今のウクライナよりも、金持ちで、社会のまとまりは強い。しかし広島と長崎の原爆投下の傷を抱え続ける日本人にとって、原発の大惨事による長引く影響は、金銭や豊かな暮らしで帳消しにできるものではない」とも。

 プリピャチは主に原発作業員とその家族が暮らしていた街で、事故25年を扱ったこちらの英『ガーディアン』記事には、居住者用に用意されていた観覧車がまだ残されている写真があります。

 上記したのとは別の『AFP通信』記事は、「原子力の恐怖にさらされる世界、チェルノブイリを追悼」という見出しで、東電は「情報提供の方針を批判されてきた。この姿勢は、1986年のチェルノブイリ事故でソ連当局が真実を認めようとせず惨憺たる結果をもたらした記憶を想記させる。ソ連政府はチェルノブイリ事故について3日間、沈黙を続けた」と、東電と当時のソ連政府を同列に扱っています。

 さらに記事は、当時の現場作業員らを表彰したロシア政府の25日の式典に触れて、そこでメドベージェフ大統領の、「チェルノブイリで起きたこと、そして直近では日本で起きた悲劇から、現代国家は学ばなくてはならない。人々には真実を知らせなくてはならないということ。これが最大の教訓だ」という発言内容を紹介しています。

 「国民に真実を知らせなくてはならない」とロシアの大統領が演説する。これはいったいどういう歴史の皮肉なのかと、書きながら少しクラクラしますが、メドベージェフ大統領はさらにこうも言ったそうです。「世界はあまりにもろい。そして私たちのつながりはあまりに多岐にわたる。そのため、真実を隠そうとしたり、状況を誤魔化そうとしたり、実際よりも楽観的に語ろうとすると、事態は悲劇で終わり、人命が失われる」と。

 繰り返しますが、「国民から真実を隠すな」と、(元KGBのプーチン氏が首相を務める)ロシアの大統領が演説している、この歴史の皮肉というのは……。ことさらに日本政府を批判する演説とは思えないにしても。たとえ一般論だったとしても。

 3/11 以後の日本で具体的に悪質で意図的な情報隠蔽があったかはともかく、そういう「そうだ、隠してるに違いない」という印象論がまかり通ってしまったのは事実です。25日から原子力安全保安院と東電の記者会見を統合したのは、そうした批判への対応の一環なわけで(あの長さでは、会見する方も聞く方も大変ですが……)、ともかくもロシア政府から情報開示について説教されるような事態はくれぐれも避けてもらいたいものです。

危険な現場で作業した英雄たちは……

 ところでロシア政府がクレムリンで行った式典では16人の元チェルノブイリ作業員たち(「lucheviki」、英語で「liquidator」、訳すと「清算人」と呼ばれるそうです)が表彰されたのですが、こちらの『AFP通信』記事によると、事故が起きてソ連政府は計50万人もの作業員を現場に送り込んだが、ロシアに今残る元作業員約22万人の内9万人が深刻な慢性疾患を抱えているというデータもあるとのこと。そしてその多くは月に約9万円程度の年金を支給されるのみで、もっぱら忘れられた存在になっていた。しかし「フクシマのおかげで自分たちがまた注目されるようになった、ありがたい」と、元作業員たちは話したというのです。

続きはこちら

※関連記事
復興のため静かに動き静かに去る そして「レベル7」の意味を静かに語る
放射能に汚染された水を海に……英語メディアは淡々と懸念
日本経済は立ち直ると海外エコノミストたち……ただし原発は懸念
3/11のあの瞬間はそれだけで終わらず(フィナンシャル・タイムズ)
東電に比べればリーマンは些細な話(フィナンシャル・タイムズ)