「歴史上の有名人は全国各地にいるので、平賀源内では少し弱いかもしれません。お遍路は全国的に有名ですし、しかも、祈りが叶う結願処(けちがんどころ)の大窪寺があるのは、四国でもまれに見る大変な財産だと思います。皆さんどう思われますか?」
すると、ある土産物屋の店主が口火を切った。「大窪寺のお土産をつくっても、寺の前でしか売れん。寺から離れたわしらのところには関係ない」。……寺の門前どころか、全国で売れるものを開発すると、最初に決めたはずなのに。私は頭を抱えた。
「お遍路さんにしか売れないものを作っても、数が出ないじゃないか」という意見も出た。しかし、さぬき市を訪れるお遍路さんは年間30万人に上る。数として十分なうえ、ターゲットを明確に絞り込むほど商品の訴求力が高まるというのは、マーケティングの基本中の基本だった。この点については、できる限り噛み砕いた説明を心がけたつもりだったが、なかなか理解を得られなかった。
そうこうするうちに、とうとう一人が感情をむき出しにして吼えた。
「意見を出せと言われたから出してるんじゃないか! 最初からお遍路で行くつもりだったんなら、何でわしらに考えさせるんだ!」
「コンサルタントなら、お遍路と平賀源内、どちらが人気があるか、データで示したらどうだ!」
「面倒な議論なんかいらん! 何をつくればいいかを示すのがあんたの仕事だろ!」
会場のイライラ感は頂点に達し、もはや収拾のつかない状況になっていた。議事進行役の三谷局長からは助け船が出ない。頼りの十河会長は、用事のため中座していた。専門家として呼ばれた自分が、会議の仕切りもすべきなのか。私は自らの役割が見えなくなり、ついに大声で叫んだ。
「いいですか、これは皆さんのプロジェクトなんです。皆さんが、考えて、作って、売るんです。私も精一杯お手伝いしますが、黙って待っていたら新商品が降ってくるなんて思わないでください!」
そこで会議は時間切れとなり、出席者たちは、ざわざわと不満げな様子で部屋を後にした。
こうして、初会合は袋叩きで終わった。
(本連載は毎週月曜日に掲載します。次回は5月30日です)