「守秘義務を守れなどと厳しく言いながら、その情報を基にカネ儲けをしていたなんてあきれる」

 過去に野村證券をアドバイザーに使ったことがある事業会社の幹部は、怒りを隠さない。

 4月22日、野村證券の中国人社員とその知人2人が、インサイダー取引の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。公表される前の情報を基に21銘柄を購入し、公表後に売り抜けて4000万~5000万円の利益を得ていたものと見られている。

 今回、悪用された情報は、M&A(合併・買収)に関する情報。「値上がりは確実で、上値が最も予測しやすい。誤解を恐れずにいえば、最もインサイダー取引に適した情報」(証券会社幹部)だという。

 逮捕された社員は、そうしたM&Aの提案、助言などを行なう企業情報部に所属していたことから、内部管理体制がヤリ玉に挙がった。もちろん野村證券も、企業情報部では国内株の取引を禁じているほか、情報漏れを防ぐためパソコンへのアクセスを制限するなど、対策は講じていた。

 「最後は社員のモラルの問題で、防ぎようがないのが正直なところ」と証券他社の幹部も防止策の難しさを吐露する。

 事件を受けて、企業年金連合会が運用取引を中断したほか、すでに「金融庁の行政処分が出るまで取引を見合わせる」とする企業も出始めている。

 こうした動きについて、「受発注業務はもともとあまり儲からず、今年度の上期は新規上場案件などもほとんどないため影響は限定的」と関係者は語る。

 しかし、「企業情報部が業務停止になる可能性も高い。儲け頭だけに影響はかなり大きい」と業界関係者は語る。

 市場を取り巻く環境が悪いなかで、市場の担い手である証券会社、しかもその最大手で起きた前代未聞の事件は、しばらく尾を引きそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 田島靖久)