「やる」と決めたらすぐに動く

 下山直後で疲れているどころか、私のコンディションは絶好調。南極点まではスキーで行くと知り、下山した当日にすぐさまトレーニングを始めました。

 初めてのスキーは5歳の時で、その後、父に連れられて軽井沢や東北で滑ったり、友人たちとスイスで行われるスキーキャンプに参加したり、ロシアの冬山でバックカントリーのスキーをしたり。時にはモーグルを楽しむこともあり、私はかなりのスキー好きです。

 それでも、私がやっていたのは斜面を滑るアルペンスキー。つま先も踵かかとも固定され、スキー板と足が一体化したものです。

 一方、南極点まで行くのはクロスカントリースキー。
 平地を滑るため、つま先のみが固定されています。「滑る」だけでなく、「走る、歩く」に近い動作をするためですが、慣れるまでには練習が必要でした。

 また、「南極を犬ゾリが走る」というのは物語の中のイメージで、1998年からは検疫の問題などで南極への動物の持ち込みは禁止されています。

 テントや食料など、すべての荷物を自分で運ばねばならず、60キロ以上の荷物を載せたソリを引いてスキーで進むことになります。それに備えて、重い荷物を腰につけてひたすら引っ張るという地道なトレーニングもしました。たとえて言うなら、「2リットルのペットボトルを5本背負い、大きなタイヤを5つロープで腰に縛しばり付けてスキーをする」、そんな感じです。

 南極で私たちが使えるのはベースキャンプの衛星電話だけですが、南極点行きにあたり、改めて父に電話をしました。私の意思を伝えると、「資金はどうするんだ?」というまたまた冷静な言葉。

 「自分でなんとかするつもり」と言うと、父は「そうか」とひと言。相変わらず「応援はするけれど自分でなんとかしなさい」というスタンスです。

 そんなことよりその時の私は、南極点という「目の前のチャレンジ」に心を躍らせていました。