世界トップレベルのエンジニアとデザイナーの集団

 サヴィオークには世界トップレベルのエンジニアとデザイナーがそろっている。ほとんどがシリコンバレーの著名な民間ロボット工学研究所、ウィローガラージの出身だ。彼らはロボットヘルパーをレストランや病院、老人ホームなど、人間の暮らしにとり入れるというビジョンをもっていた。

 スティーブは最初のターゲットにホテルを選んだ。ホテルはつねに同じ問題が生じる、比較的単純で変化の少ない環境だからだ。ホテルではチェックインとチェックアウト、部屋へのお届けのリクエストがフロントデスクに殺到する「ラッシュアワー」のピークが、毎朝夕に生じる。ロボットが力になれる絶好のシチュエーションだ。

 ロボットは、近くのホテルで来月サービスを開始し、本物の宿泊客にものを届けることになっていた。ゲストが歯ブラシやカミソリを忘れたら、お助けロボットの出番というわけだ。

 だが一つ問題があった。ゲストがお届けロボットを気に入らないかもしれないと、スティーブたちは懸念した。気味悪いとか怖いとか思われたらどうしよう? 先端技術の集大成であるこのロボットに、人前でどんなふるまいをさせるべきか、彼らは決めかねていた。

 ロボットがタオルなどを届けることには、薄気味悪いと思われるリスクがあると、スティーブは説明した。サヴィオークのヘッドデザイナーを務めるエイドリアン・カノーソは、リレイを親しみやすくするためのアイデアをいろいろもっていたが、ロボットをお披露目するまでにチームが下さなくてはならない決定は山ほどあった。

 ロボットにどうやってゲストとやりとりをさせるか? どれくらいの個性を与えるべきか、どこを超えるとやり過ぎになるのか? 「それに、エレベーターという鬼門がある」とスティーブはつけ加えた。

 ジョンはうなずいた。「人間と乗り合わせるのでさえ、気まずいもんな」

「そうなんだ」といってスティーブはリレイをなでた。「ましてやそれがロボットだったらどうなる?」

 サヴィオークはまだ創業数ヵ月で、デザインとエンジニアリングを軌道に乗せることに専念していた。1000軒以上のホテルを運営する大手ホテルチェーン、スターウッドでの試験運用が決まっていたが、大きな問題がいくつか残っていた。それらはロボットの根幹に関わる、成否を左右する重要な問題で、ホテルでの試験運用が始まるまでの数週間で答えを出す必要があった。

 まさに「スプリント」にもってこいだ。

「重大なリスク」を特定する

「スプリント」とは、GVが活用しているプロセスで、アイデアをプロトタイプのかたちにすばやく落とし込み、それを顧客とテストすることによって、たった5日間で重要な問題に答えを出す手法をいう。事業戦略やイノベーション、行動科学、デザインなどの手法の「ベストヒット」集を、どんなチームにも活用できる段階的プロセスにパッケージしたものだ(「スプリント」について、さらなる詳細は本連載前回参照)。

 サヴィオークのチームはこの体系化された意思決定プロセスを用いて、ロボットのアイデアを何十も検討し、集団思考に陥らずに最強のソリューションを選ぶことができた。たった1日でリアルなプロトタイプをつくった。そしてスプリントの最後のステップとして、ターゲット顧客を集め、近くのホテルに即席研究室を設けてテストを行った。

 この物語の天才ヒーローが僕らだといえたら、どんなにいいだろう。どんな会社にも乗り込んでいって、華々しいアイデアをくり出し、爆発的成功を導くヒーローだ。

 でも残念ながら、天才は僕らじゃない。サヴィオークのスプリントが成功したのは、もとからチームにいた本物の専門家たちのおかげだ。僕らはただ、仕事をやり遂げるためのプロセスを提供しただけだ。(次回に続く)

ジェイク・ナップ他著、櫻井祐子訳『SPRINT 最速仕事術』(ダイヤモンド社刊)のイントロダクションより)