今回の原稿は、出張先のタイで書いています。おいしいタイ料理やトロピカルフルーツを存分に食べることが出来ることが楽しみなのですが、それだけであれば、日本にいても同じことかもしれません。日本でも、今やタイ料理店はけっして珍しくありませんし、スーパーの店頭には世界中の果物が並んでいます。
いや、タイに行ってこそ本場の味が楽しめるし、その場の空気、雰囲気を含めたおいしさがあるのだとか、取れたての新鮮な食材にはかなわないとか、それはいずれも正しい指摘ではあるのですが、居ながらにして世界中の食べ物を楽しむことができるのが、今の私たちの生活です。
それだけではありません。日本の伝統的な料理、食材なのに、その原料を今や海外からの輸入に頼っているという場合もあります。例えば大豆は、醤油や納豆、味噌、豆腐などの原料となり、和食のもっとも基本的な素材と言ってもいいと思いますが、今やその95%は輸入された大豆です。日本で必要とされるだけの大豆を日本の畑では作りきれないという事情もありますが、やはり最大の原因は、海外で作って輸入した方が安いからでしょう。
食事をする、さらには食べ物を手に入れるということは、私たちの生活のもっとも基本です。したがって、ついこの間までは、食べ物は自分たちで作ったり、あるいは自分の住んでいる場所のごく近所から集められていました。ところがこのわずか数十年の間に、私たちは海外の珍しい食べ物や、日本ではその時期には取れない食べ物、あるいは日本産のものよりずっと安い価格の食べ物を普通に口にするようになりました。
しかしそんな状態が、果たして今後いつまで続くのでしょうか。私たちが海外の食料に依存することができるのは、輸送手段の発達と、その安い費用に支えられています。今後石油価格が大幅に高騰すれば、世界中の安いところから食料を買ってくるというこれまでのやり方は通用しなくなってしまいます。