日本発の壮大なノンフィクションに期待
同じ時期に刊行された類書として、ヨーロッパ各国の政治経済を俯瞰した上でさらに悲観的なのが、ジェームズ・カーチック著、“THE END OF EUROPE”だ。ここではアメリカ同様、主にロシアの情報戦略によってヨーロッパでもリベラル、保守の両方で水面下での過激化が進み、民主主義と自由経済そのものが脅かされていると説く。イギリスの「ブレグジット」やフランスのマリー・ルペンら国粋主義者の台頭も、ヨーロッパを周って滞在した著者ならではの身近な例を引きながらわかりやすく全体像がつかめる。1940年代からヨーロッパ経済はほとんど成長しておらず、国民が総じて政治そのものに深く落胆しているがため、ポピュリズムに乗じた権威主義者が政府を乗っ取ろうとしているのだと警告する。
著者カーチックは、ロバート・ケーガンやビル・クリストルら「ネオコン」と呼ばれる保守派論客が設立したフォーリン・ポリシー・イニシアチブというシンクタンクのメンバーだ。彼は共和党員ではあるものの、トランプの外交政策は危険すぎて賛成しかねると、昨年11月の大統領選の際にはヒラリー・クリントン支持を打ち出していた人物。
そして2017年、アメリカの大統領が代わっただけでアジアの情勢がここまで急激に緊迫したものになると誰が想像しただろうか。北朝鮮の問題となると、マスコミも保守の論客もお手上げ状態で、トランプ大統領にハラハラさせられている、というのがアメリカ国内の実情だ。
今こそ、中国やインドの経済失速を見抜き、北朝鮮の今後の出方を推測し、こうすれば日本がアジアのリーダーとしての努めを果たせる、という壮大なノンフィクションの本を読みたいと思っているのは私だけではないはずだ。日本発の類書に期待したい。長い歴史と、それに裏打ちされた文化と、70年に及ぶ揺るぎない平和への希求を堂々と語る本こそ「クール」なジャパンだと言えるように。