全6種/各399円(税込)。画像左:セット内容、画像右:商品ラインナップ。 ドラッグストア、量販店、スーパー、書店などで販売

 お風呂にお気に入りの作家の本を持ち込み、リラックスタイム。読み進めると、ある花の香りについての記述が目に留まる。それはまさに、今鼻腔をくすぐる入浴剤の香りと同じだ。作品と香りが調和する未知の感覚に浸りながら、至極の時間を過ごす……。

 バンダイが、角川書店とのコラボレーションにより、人気作家の作品1冊と入浴剤1包がセットになった『ほっと文庫』を8月3日から発売する。作品は、誰しもが認める人気作家である、赤川次郎、あさのあつこ、有川浩、桐生操、西加奈子、森見登美彦の6名が書き下ろした約30ページの短編。それぞれの作品に「色」と「香り」が登場する。入浴剤はそれらの作品中の色と香りがイメージできる分包になっている。

 つまり、書籍と入浴剤を組み合わせた“マッシュアップ商品”であり、冒頭のような新手の読書体験・入浴体験が楽しめる。(マッシュアップとは、混ぜ合わせるという意味。もともと音楽やITの用語)

 たとえば、あさのあつこの作品『桃の花は』のあらすじはこうだ。「典型的な草食男子大学生の那留が初めて見せたこだわり。それは、美枝が語った故郷の『桃の花の香り』を嗅ぐこと。10歳年下の彼氏に振り回されまいとする美枝だが、桃畑の中で自分を呼ぶ女性の記憶が気になり始め……。薄紅色の桃の花 ―― 色と香りが結ぶ出会いと別れの物語」(『ほっと文庫』HPから転載)。セットとなる入浴剤は、もちろん「桃の花の香り」である。

 さて、この商品では、バンダイが入浴剤、角川書店が書籍を提供し、マッシュアップさせている。「玩具メーカーであるバンダイがなぜ入浴剤?」と不思議に思う人もいるかもしれないが、実はバンダイは、1989年に子ども用生活用品市場に本格参入し、キャラクターなどを使ったシャンプーや歯ブラシ、ランチ用品等と併せて、入浴剤も数多く販売してきた実績を持つ。その入浴剤を大人向けに開発し、展開するのが今回の商品である。

 バンダイ広報部は背景をこう語る。「近年健康志向から半身浴をする人が増え、その時間を有効に使おうと、本を読む『ながら入浴派』も増えている。また、スマートフォンやモバイルゲーム機器の普及や娯楽の多様化で、ゆっくり本を読む時間がない人も多い。そうした点に着目して、商品を企画した」。

 バンダイでは、同様の企画が5年前にも立ち上がったが、社内環境が整わず、実現しなかったそうだ。今回はたまたま角川書店の担当者を知る社員がいて、相談を持ちかけたところ、話はスムーズに進み、合意に達した。バンダイ側からは「20代女性に人気の作家」「色と香りを作品に盛り込む」という2点だけ注文を出し、角川書店が作家の選定と調整を担当した。「購買層は半身浴に関心の高い20~30代の女性がメインになるだろう。30万個の販売を目標とする」(バンダイ広報部)。

 バンダイが指摘するように娯楽は多様化し、今は「書籍が売れない時代」と言われる。しかし、単体で考えるからそうした結論になる。発想を転換し、複合型のマッシュアップ商品に仕立てることで、既存の読書ファンに新たな楽しみを提供するだけでなく、読書に縁のなかった層を取り込むことも期待できる。今回は半身浴というトレンドからヒントを得たが、今後、他のシーンやトレンドでも関連する商品とのマッシュアップを展開できれば、書籍市場の救世主となるかもしれない。

 なお、バンダイは約5年前から異業種コラボレーションによるマッシュアップ商品に力を入れている。最近でもシャープと「キャラクター電卓」、不二家と「ミルキーあぶらとり紙」など、協業により話題性の高い商品を世に出した。

「コラボレーションのメリットは互いに得意な分野を掛け合わせて、商品を進化させられること」と、バンダイは言う。日頃からマッシュアップ的な発想を持ち、全くの異業種でも人脈を頼りに果敢に挑む。“退化”を止める1つの手法として参考にしたい。

(大来 俊/5時から作家塾(R)