理想的な「集中脳」で起きていること
マインドフルネスと集中力との「結び目」になっているのが、フローと呼ばれている状態です。
フローとは、心理学者のミハイ・チクセントミハイが提唱した概念であり、リラックスしながらも、対象に浸りきって、すさまじい集中力が発揮されている状態のことをいいます。
仕事の場面などでもこの種の意識状態は報告されていますし、一流のアスリートが世界的な記録を出すときにも、このリラックスした集中状態を体験するといいます。スポーツなどの文脈では、ZONEという言葉が使われたりもしますので、そちらに馴染みがあるという人もいらっしゃるかもしれません。
マサチューセッツ大学メディカルスクールのジャドソン・ブルワー准教授は、フローにも後帯状皮質が関係すると考えています*03。後帯状皮質は、雑念回路である「DMN(Default-Mode Network)」を司る脳部位の1つですが、ここは同時に、自己への気づき(Self-awareness)を担う部位としても知られています。
自己への気づきとは、「いまこれをやっているのは、ほかでもなく私だ」という自意識のことです。自意識が前面に出ている状態というのは、自分と対象とが溶け合っているフローとは対極にあります。
たとえば、2008年の北京オリンピックで、陸上女子100メートルハードルのアメリカ代表だったロロ・ジョーンズは、ずっとトップを走っていたにもかかわらず、最後から2番目のハードルに引っかかって金メダルを逃してしまいました。
このとき彼女は、「『脚をしっかり伸ばそう』と考えてしまった」と語っています。これはまさに自意識が顔を出して、ZONEが解けてしまったということでしょう*04。
ブルワーは、後帯状皮質の活動が低下し、自意識が背景に退いている脳状態こそが、フローの正体だと考えているようです。したがって、マインドフルネスによって後帯状皮質を鎮めれば、リラックスと集中とが共存した精神状態(フロー)は生まれやすくなります。アスリートらがこぞってマインドフルネスを実践する理由も、ここにあるのでしょう。
Brewer, Judson A., et al. (2014) “The posterior cingulate cortex as a plausible mechanistic target of meditation: findings from neuroimaging.” Annals of the New York Academy of Sciences 1307.1: 19-27.
*04) Brewer, Judson A. (2013) “How to Get Out of Your Own Way (and the Brain Science Behind It).” The Huffington Post: http://www.huffingtonpost.com/dr-judson-brewer/optimal-psychology_b_3245485.html