「できる人」ほど、集中力が低下しやすい!?
医師(日・米医師免許)/医学博士(PhD/MD)。イェール大学医学部精神神経科卒業。日本で臨床および精神薬理の研究に取り組んだあと、イェール大学で先端脳科学研究に携わり、臨床医としてアメリカ屈指の精神医療の現場に8年間にわたり従事する。現在、ロサンゼルスにて「TransHope Medical」院長として、マインドフルネス認知療法やTMS磁気治療など、最先端の治療を取り入れた診療を展開中。臨床医として日米で25年以上のキャリアを持つ。趣味はトライアスロン。著書に『世界のエリートがやっている最高の休息法』『脳疲労が消える 最高の休息法[CDブック]』(ダイヤモンド社)がある。
ビジネスの現場などでも、コンピュータのようなマルチタスク処理によって、膨大な仕事量を効率よくこなせる人がもてはやされる傾向があります。できるビジネスパーソンに「ながら作業の達人」が多いのは事実でしょう。
一方で、そのようなマルチタスクに慣れきってしまうと、脳からは「大切な機能」が失われていきます。それは集中力です。自動操縦モードにどっぷり浸かっている脳からは、注意を一箇所に固定しておく力がなくなっていくのです。
社員の集中力低下は、企業にとっては死活問題です。マルチタスクが得意なエリート人材が集まるグーグルが、いち早くマインドフルネスを取り入れたのも頷けますね。
マインドフルネスと集中力の関係についても、脳科学的な研究はかなり進んでいます。注意をうまく分配する働き(前頭葉や頭頂葉が関与)や、障壁となる葛藤をうまく処理する働き(前帯状皮質、島、基底核が関与)は、マインドフルネスによって相当高まることがわかっているのです。
そのほか、いわゆるADHD(注意欠陥・多動性障害)の人にもマインドフルネスが有効だという研究結果があります*01。つまり、落ち着きがなくて集中力に欠ける人々も、マインドフルネスによって注意力を高められるというわけです。
ある企業の人事課スタッフたちを対象にした研究では、週2時間×5週のマインドフルネスを実践したグループと、ただのリラクゼーションをやっただけのグループとの対照実験を行いました*02。
スケジュール管理などの複数のタスクを20分でこなすように指示したところ、より高い集中力を見せたのは、やはり前者のグループだったそうです。マインドフルネスが「目の前の仕事に集中する力」を高めた結果、複数のタスクをよりスピーディにこなせるようになったということでしょう。
*02) Chiesa, Alberto, et al. (2011) “Does mindfulness training improve cognitive abilities? A systematic review of neuropsychological findings.” Clinical Psychology Review 31.3: 449-464.