この20年で時代は大きく変わったが、今後20年の変化は、その比ではない。思いもよらない変化が次々と起きるこれからの社会では、「たくましさ」、「地頭のよさ」、「社交性」が常に求められるのだ。「世界標準の子育て」では、4000名のグローバル人材を輩出してきた著者が、世界中の子育ての事例や理論をもとに「未来の子育てのスタンダード」を紹介していく。
「考える力」がなければ、未来を切り開くことができない
これからの子育てに必要な条件は、3つ。「自信」「考える力」「コミュニケーション力」です。今回は、「考える力」について見ていきましょう。
現代社会では、医療やテクノロジーはもちろん、ダイエットから子育て方法に至るまで日々新しい発見や検証がなされ、それまでの常識をくつがえすような事柄が次々と生まれています。
一体何を信じたらいいのかわからなくなるかもしれませんが、これはグローバル社会の宿命だと言えます。
変化の激しい時代では、自分で考えて判断する力が強く求められるのです。
情報を見極める力、常識を疑う力、未来を予測する力、多面的に考える力、自分の思考を検討する力など、「考える力」が育っていなければ、氾濫する情報や社会の変化にふり回される人生を送ることになってしまうでしょう。
キャリアの面を考えても、「一生懸命勉強して、良い大学に入り、良い企業に就職する」という考え方は通用しなくなってきています。
グーグルの創業者、ラリー・ペイジは「20年後には、今の仕事のほとんどが機械によって代行される」と言っています。また、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツは「創造性を必要としない仕事はテクノロジーに代行される。来るべき未来を意識するように」と人々に警告しています。
子どもたちは、これまでの常識や価値観の中で生きるのではなく、自分の人生を自分の力で開拓しなければならないのです。
自分の強みを知り、どんな人生を歩みたいのか、それを実現するためにどう行動すべきなのか、その答えを得るために「考える力」が必要になります。
答えのある問題ではなく、答えのない問題が極めて重要
しかしながら、現在の日本の学校教育では十分な「考える力」は育ちません。
いまだに学校教育の主流は知識の詰め込みであり、答えが決まっている問題の解き方指導に終始しています。
知識ももちろん重要なのですが、スマートフォン一つあれば知識は誰でも手に入れることができる時代です。知識をどう活用するか、答えのない問題をどう解決するか、それらを「考える力」の育成がより重視されるべきなのです。
日本の学校教育のように数値で評価できる知識や技術を「ハードスキル」と言います。一方で明確に数値化できない技術や能力を「ソフトスキル」と言います。
すなわち、論理的思考力、分析力、批判的思考力、問題発見力、問題解決力など、「◯×式テスト」で評価することが難しいスキルのことです。
今、世界の学校教育の主流は「ソフトスキル」に移行しつつあります。教科書を読めばわかる知識を教えることよりも、答えのない問題にどう取り組むべきか、考える技術を教えることが、学校の役割だと考えられているのです。
これまで日本の学校教育は「ハードスキル」の育成を行なうことで教育水準は世界でトップクラスにまでなりました。
しかし、「これから」はそれだけではいけないのです。
時代の変化に対応していくために、人生で自由や快適さを手に入れるために、「考える力」が必要になってきます。
公式どおりではなく、思考の柔軟性を鍛えるのがインド式
「考える力」の教育に成功している代表例はインドでしょう。
インド人は現在、世界中のIT企業、エンジニアリング企業から引っぱりだこ。インド人には理数系に強い人が驚くほどいます。
特にアップルやグーグルなどの国際的なIT企業がひしめくシリコンバレーは、ここ10年でインド人が急増。今やシリコンバレー市民の4人に1人はインド人と言われています。
そんなインド人の理数系頭脳を支えているのが「暗算教育」と「柔軟性」を鍛える数学教育です。
日本でかけ算と言えば九九ですが、インドではもっと大きな数字、たとえば19×19まで暗記させるのが普通です。
また学校の算数の授業では計算機も筆算もなし。どんな複雑な計算も暗算できるように指導するのです。
私の知人のインド人は、高校2年の時に受けた「会計学」のテストで、ある企業の1年分の決算資料(貸借対照表、損益計算書、総勘定元帳)を30分間で、しかも計算機なしの暗算でつくらされたというエピソードを話してくれました。
また、日本では教科書の公式どおりに計算することが要求されますが、インドではさまざまな計算方法やトリックを自在に組み合わせて、合理的かつ簡単に答えを導き出す工夫が重視されます。
インド人は幼い頃から数字遊びを通して暗算を叩き込まれ、数字に強くなるように思考する訓練を受けて成長していきます。
機械的に公式を暗記するのではなく、「HOW?/どうしたら?」という頭の使い方を身につけさせることが「理数系頭脳」の土台となっているのです。