新刊『心に届く話し方 65のルール』では、元NHKアナウンサー・松本和也が、話し方・聞き方に悩むふつうの方々に向けて、放送現場で培ってきた「伝わるノウハウ」を細かくかみ砕いて解説しています。
今回の連載で著者がお伝えするのは、「自分をよく見せることを第一に考える話し方」ではなく、「聞いている人にとっての心地よさを第一に考える」話し方です。本連載では、一部抜粋して紹介していきます。
インパクトのある話のあとには、余韻=間が必要
間を入れることで、聞いている人が考えたり次の中身を期待するだけの時間を聞き手に与えることができ、その時間が話が聞き手の心により深くしみこむ力になっているとお伝えしました。こうした間が、「特に必要な場面」がいくつかあります。
それは、難しい話や長い話のあとです。こうした話を聞いているほうは、聞いたばかりの情報を頭の中で反芻したり整理したりするための時間がいつも以上に必要です。しかし、話す側は、なかなかそれができません。というのも、難しい話や長い話などをわかりやすく話すのは疲れるため、話し終わるとほっとして次の話題をすーっと始めたくなるものだからです。そのままなんとなく話を始めてしまうと、聞いている人はその話を消化できないまま次の話を聞かされることになり、イライラをつのらせるおそれが出てきます。
また、聞き手に感心したり、驚いてもらいたいようなインパクトのある話のあとも、間はいつも以上にあったほうが効果的です。例えば、「~以上のような現象からわかるように、今までのダイエットに関する常識はまちがっていた、ということがわかったのです!」といった目新しいセオリーを発表したと考えてください。このあと、「例えばチョコレートは、カロリーの面で…」などすぐに細かい解説を始めたとしたらどうでしょう。聞いているほうは、常識を覆すセオリーを聞いて驚こうと思ったら、それを邪魔されたような気がしないでしょうか。つまり、インパクトのある話のあとには、それを聞き手に味わってもらうための余韻=間がいつも以上に必要なのです。考えに考えたエピソードやキーワードを心に深く刻んでほしいと思うなら、積極的に長い時間黙るようにしましょう。
では、聞いている人の顔を観察するほかに、さらに間をとる方法はどんなものがあるでしょうか? 私がやっている「長い時間黙るコツ」は、黙るべき場面がきたら、ゆっくりと2回深呼吸をする方法です。この方法の利点は、「必ず深呼吸を2回する」と決めておくことによって、半ば強制的に間がとれるようになるというところです。その行動に集中することで、間をおそれる気持ちが入り込むのを防ぐ効果もあります。慣れてくれば自然にできるようになるのですが、そうなる前は、聞いている人の顔を観察するやり方とあわせて、「ここ一番の間をとると決めた場面では必ず深呼吸を2回!」とルーティーンワークにしてしまうと気楽ですよ。試してみてくださいね。
* 心に届く話し方ルール *
自分にあった「間をとるためのルーティーン」を持っておく
松本和也(まつもと・かずや)
スピーチコンサルタント・ナレーター。1967年兵庫県神戸市生まれ。私立灘高校、京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から株式会社マツモトメソッド代表取締役。
アナウンサー時代の主な担当番組は、「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007、2008)、「NHKのど自慢」司会(2010~2011)、「ダーウィンが来た! 生きもの新伝説」「NHKスペシャル」「大河ドラマ・木曜時代劇」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況など。
現在は、主に企業のエグゼクィブをクライアントにしたスピーチ・トレーニングや話し方の講演を行っている。
写真/榊智朗