たとえば、「導入するには10億円かかるが、それは3年で回収できるはずだから、ぜひ進めるべきだ」などという投資判断は、企業のシステム担当者にできるはずがありません。
また、「すでに数億円を費やしたプロジェクトだが、実は要件に不備があって、完成してもメリットがないとわかった」あるいは「完成には、予定の3倍のコストがかかることがわかった」などというとき、それでもプロジェクトを進めるか中止するかは、やはり経営に責任を持つ立場の人でないと判断できないはずです。
実際に、世の中のシステム導入プロジェクトの中で、大規模な失敗をしてしまった例では、経営層の判断が遅かったために傷口を広げ、復旧不能になったケースが多いのです。
数年前に話題になった、大規模な地銀の勘定系システム導入プロジェクトでは、大手ITベンダーが持ち込んだパッケージソフトが使いモノにならないとわかり、地銀側の担当者とベンダーの技術者の間では「損をしてでもこのパッケージの使用をやめて、最初から作り直そう」と話していました。
しかし、肝心の地銀側の経営者が、「大損をしてでもやり直せ!」という号令を発するのが遅れたために、プロジェクトは頓挫し、裁判にまで発展してしまったのです。
そこまで大きな話ではなくても、開発中に、システム化する範囲やパッケージソフトの選定の誤りに気付きはしたものの、それを経営層に報告して大規模なやり直しをすることなく、担当者が事実を隠したまま開発を続けた結果プロジェクトがつぶれて、億単位の損害を出した例などは、いくらでもあります。私の知るプロジェクトでは、その途中、発注者側の担当者が行方不明になった例もありました。