システム担当者の立場から考えると、ITシステムを導入する際には、できる限り、進捗状況や問題点を報告し、その判断を仰ぐことが必要です。

「このままだと大赤字になるが、それでも継続しますか?」
「当初予定していた要件のうち、いくつかを諦めなければならないが、それでも良いですか?」

そんなことを経営層に相談する必要があるのです。

もちろん、経営層の人たちは忙しいですから、そう多くの時間を割いてはくれません。場合によっては、いわゆる「エレベータートーク」のように30秒ほどで相談して、ある程度の回答を得るようなテクニックも必要でしょう。そして、そのためには、システム担当者自身が、日ごろから経営層の考えをよく理解していなければなりません。

システム導入の「経営的な目的」は何で、KGIやKPIはどこにあるのか。
そのために絶対に守るべきものが何で、捨てても良いものは何なのか。


そうしたことをある程度抑えた上でないと、短時間のうちに回答を得る報告や質問はできません。

そして一方、経営層の人たちには、ぜひ、システム担当者の言葉に耳を傾ける時間を持っておいてほしいところです。少なくとも、今、導入しようとしているシステムが、どのようなもので、いつまでに出来上がるはずのものなのかくらいは、理解しておいていただきたいところです。

『システムを「外注」するときに読む本』の第4章では、発注者側の経営者が、正しくプロジェクトの意義と方向性を社員にメッセージングしなかったことで、現場のプロジェクトマネージャーが疲弊してプロジェクトが頓挫してしまい、そこからどうすれば成功へ導くことができるか。その一部始終を描いています。

ITシステムの導入は、1つの大きな経営判断です。では、経営者にしかできないことは何か。
ご自分の会社や業務にあてはめていただきながら、ぜひ、ご一読くださればと思います。

細川義洋(Yoshihiro Hosokawa)
経済産業省CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。立教大学経済学部経済学科卒。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員。大学卒業後、NECソフト株式会社(現NECソリューションイノベータ株式会社)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エム株式会社にて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行なう一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。
これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より経済産業省の政府CIO補佐官に抜擢され、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる。著書に『システムを「外注」するときに読む本』(ダイヤモンド社)、『なぜ、システム開発は必ずモメるのか!』『モメないプロジェクト管理77の鉄則』(ともに日本実業出版社)、『プロジェクトの失敗はだれのせい?』『成功するシステム開発は裁判に学べ!』(ともに技術評論社)などがある。