ちまたでは、「失われた10年」もしくは「15年」という言葉がよく使われている。これはこの間のわが国経済の停滞を象徴する言葉であるようだ。しかし、「一体何が失われたのか」については必ずしも明確になっていないと思われる。今回はこの問題について考察してみたい。

日本・米国・欧州の3極を比較すると
わが国の落ち込みは明らか

 発展著しいBRICsはひとまず置いて、かつては経済3極と呼ばれていた日・米・欧の15年をまず単純比較してみよう。

 欧州は独・仏・英の3国を対象とした。ちなみにこの3国でEUの27カ国GDPの約5割(2010年)を占めている。

★1:GDP(実質、単位:10億)
   1995(①)  2010(②)  ②/①
 日本(円)  479,716  539,739  113%
 英国(ポンド)  964  1,312  136%
 ドイツ(ユーロ)  1,867  2,243  120%
 フランス(ユーロ)  1,256  1,622  129%
 米国(ドル)  9,093  13,245  146%
財政赤字(政府債務(General government gross debt)対GDP比、単位%(②‐①はポイント))
   1995(①)  2010(②)  ②-①
 日本  92  220  128
 英国  46  77  31
 ドイツ  56  80  24
 フランス  55  84  29
 米国  71  92  20
(出所)GDP、財政赤字は「IMFWorld Economic Outlook Database, April 2011」からのデータをもとに作成(小数点以下は四捨五入)

★2:株価
   1995(①)  2010(②)  ②/①
 日本  19,868  10,228  51%
 英国  3,689  5,899  160%
 ドイツ  2,260  6,914  306%
 フランス  1,256  1,622  129%
 米国  5,117  11,577  226%
(出所)株価はBloombergからのデータ(各年末の数値)。それぞれ、日経平均(日)、ダウ工業株30種(米)、DAX指数(独)、CAC40指数(仏)、FTSE100指数(英)

 

★3:中央銀行の資産規模

◆(出所)日本銀行金融市場局「2010年度の金融市場調節」(2011年4月)

 これを見ると一目瞭然だが、この15年間に突出して財政を出動させ、また金融緩和を大胆に行ってきたのは、まさに日本であった。この表には表れてないが、この15年間に為替市場に介入したのも日本だけである(溝口財務官の時代におよそ35兆円に及ぶ大規模介入を行ったことはよく知られている通りである)。

 このような財政・金融政策の大幅な緩和は、通常の経済学の教科書に従えば、民間投資が盛り上がってくるまでのいわば「場つなぎ」(景気循環の下降局面における下支えあるいは時間稼ぎ)としての機能を持つとされている。そして、わが国では、この「場つなぎ」が実に15年も続いているのである。