英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週は「ドジョウと呼ばれた男」、ないしは「ノダと呼ばれた魚」についてです。え、一国の総理大臣に失礼な物言い? だって野田佳彦新首相が自ら、そう自称したのですし。支持率の低さを冗談のネタにしている場合かと批判する記事もありましたが、新首相の「自称ドジョウ」は英語メディアではおおむね好意的に受け止められたようです。もっとも、良かったのは「ドジョウ」だけであっという間にまた首相交代なんてことになりかねないと、そういう冷めた目線が前提ですが。(gooニュース 加藤祐子)

「ドジョウよ、おめでとう」

 これを書いているつい先ほど、野田佳彦氏が衆参両院で内閣総理大臣に指名されました。英語メディアではかねてから「回転木馬(merry-go-round)」とか、「回転扉(revolving door)」とか呼ばれ、「まばたきする間に見逃す(blink-and-you-miss-them)」とも言われる日本の総理大臣の交代劇です。今度こそ「Yawn...(あくび)」とまるで無視されたらどうしようかと少し気にしたので、民主党代表選の結果を受けてこれだけたくさんの英語記事が書かれていたのは、いやはややれやれです。

 早いものでは(予定稿を用意してあったのか)決選投票の結果発表から約1時間の午後3時半ごろには長行記事が出ていました。たとえばAP通信のマルコム・フォスター記者は、野田氏について「財政保守として知られ」、「日米同盟を強力に支持してきた」ことや、「中国の経済成長を称えながらも、軍事力の拡大に懸念を表明してきた」ことも説明しています。

 米紙『ワシントン・ポスト』は社説で、「日本の政治家たち、新首相を決める またしても」と見出しからして皮肉たっぷりです。しかも出だしからいきなり「日本の有権者の意見が通るなら、新首相は前原誠司前外相だった」と。

 (余談ですが、『ワシントン・ポスト』など一部の英米メディアによる前原氏プッシュはちょっと驚くほどです。前にもご紹介したように、同紙は今年1月に訪米した当時外相の前原氏を非常に好意的に取り上げていました。献金問題で外相を辞任した時には英紙『ガーディアン』も辞任は「損失だ」と惜しみ、英紙『フィナンシャル・タイムズ』も先月の時点で前原氏を次期総理と見込んでいるかのようなインタビュー記事を掲載していました。何はともあれ前原氏は、英語メディアへのアピールには大成功しているようです)

 話がずれました。前原氏ではなく野田新首相に話を戻しますと、『ワシントン・ポスト』社説は、世論調査の支持率は実に5%に満たなかったのに民主党議員たちは野田氏を選んだとこれまた皮肉たっぷり。野田氏が代表選前に「ルックスはこうなので支持率は上がらないかもしれない」と述べたことについても、ほとんどの日本人の大半が民主党も自民党をも「見下している(hold with disdain)」状況だというのに、首相候補が自分の支持率の低さを自慢するのは「奇妙な話だ」と。ただし「最近の歴史がプロローグとなるなら、(低い支持率という)その選挙公約だけはおそらく実現されるだろう」と。さらに、日本は慢性的な政治危機状態にあり、加えて大震災、長引く経済停滞、アメリカの財政危機より遙かに大規模な公的債務の問題を抱えているのだが、その中で総理大臣になった野田氏はともかくも、「1年でいなくなる力なき前任者たち」の運命を避けるのが第一の任務だと。いや、もう、すごい皮肉の連発です。

 同紙社説いわく、野田氏はその指導力で選ばれたのではなく、民主党内の内輪もめで選ばれたに過ぎないと。そして「ややナショナリスト」なため韓国や中国は「警戒している」と。「fiscal hawk(財政タカ派=財政保守、緊縮財政派)」でもあるため、野田氏が震災復興財源として消費税増税を掲げるのを評価するエコノミストもいるが、「ただでさえ輸出依存で内需を嫌う日本経済の矛盾をさらに悪化させるかもしれない」と。しかも野田氏の増税論がたとえ評価に値するとしても、「明確な政策目標のもとで党内の一致団結を図るのは無理かもしれないし、ましてや自民党が支配する参議院をも通過させるのは困難だろう」と。

 その上で同紙社説は「日本は今でも世界第三位の経済大国だし、アメリカにとって今でもアジアで最も重要な同盟国だ。日本の政治膠着は、人口1億2600万人の島国のはるか彼方にも影響を与える。ゆえに、悲観論者たちの誤りを野田氏が証明し、総理大臣メリーゴーラウンドの回転速度を下げてくれるよう、私たちは期待している。ドジョウよ、おめでとう(Congratulations to the loach)。あるいは、長期政権となりますように」と結んでいます。

 皮肉にまみれてはいますが、日本の政治膠着が日本以外にも影響を与えるというのは、本当にその通りだと思います。そして「もうどうでもいいから。日本がどうでも、もう世界に影響ないから」と無視されないだけ、私たちは幸せなのだし、そう言われないうちに何とかとかしなくてはならないのだ、とも思うのです。

 野田氏の最大の課題は「首相でい続けることだ」と書く米紙『ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)』も、野田氏は菅政権の財務相として「財政タカ派主義の広報マンだった。日本ではそれは拡大する社会保障費の財源として消費税率を倍にすることを意味する」と説明。しかし野田氏は「財政タカ派」と言っても、被災地復興のために「ケインズ的な大盤振る舞い(Keynesian spending spree)」に疑問を呈するには至らなかったし、それ以外の成長改革戦略(郵政民営化の復活や経済の大規模規制緩和、外国人労働者の受け入れなど)についてはまったく期待できないと。

 (余談です。「まったく期待できない」と訳した部分、記事原文は「日本語で『fugheddaboudit』は何て言うんだ?」。その答えは「ありえねー」とか。「fugheddaboudit」はそのまま「フゲッダバウディッ」と発音します。魔法の呪文ではなく、「forget about it(忘れろ)」をアメリカ人が思いきり辟易とした感じで雑に発音するとこういう音になります。かつてジョン万次郎が「What time is it now?」を「ほったいもいじるな」と発音するよう書いていたのを思い出します)

 さらに同紙は、前任の鳩山由紀夫氏や菅直人氏と比べて「まだ強大すぎる」官僚寄りで、特に財政についての考え方が財務省に近すぎると懸念するものの、「絶望は時期尚早すぎる。人気者でカリスマ性のある前原誠司前外相と手を結ぶことによって権力を握った野田氏のやり方は、期待できる」と書きます(またしてもここでも、WSJも「日米関係の強化を掲げ」てきた前原氏をプッシュ! 消費税増税に反対する前原氏が、野田首相の考えを変えさせるかもしれないとまで)。

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