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日本の基幹産業の“最後の砦”と期待されるリチウムイオン電池。この分野で日本勢が長らく守ってきた世界シェアトップの座を、ついに韓国勢に明け渡すことが明らかになった。東日本大震災による部材のサプライチェーン寸断に加え、円高によってコスト競争力を削がれた国内メーカーが、根こそぎシェアを奪われた格好だ。
2011年4~6月期の世界シェアは、日本勢の合計が33.7%に対して、韓国勢は42.6%(セル出荷数ベース。テクノ・システム・リサーチ調べ)。同年1~3月期にほぼ並んでいたが、一気に約10%の差をつけられた。世界トップメーカーはサムスンSDI(25.3%)、三洋電機(18.4%)、LG化学(17.3%)の3社に絞られ、被災によるダメージが大きかったソニー(7.9%)は2ケタを大きく割り込んだ。世界市場全体は右肩上がりにもかかわらず、日本の電池メーカーの悩みは深まっている。
ライバルは海外勢だけではない。「国内が一丸となるときに、被災地で技術者の引き抜きをするとは、許しがたい」。あるソニー幹部は、福島県内にある電池生産の主要拠点工場で働いている技術者たちを狙って、ヘッドハンティングが横行していると明かす。「すでに面接を通って、内定通知をもらった社員も複数いる」(同幹部)として調査を進めると、エージェントを通して人材を狙っていた“黒幕”に、国内大手自動車メーカーの名前が浮上した。
バッテリーを中核とした電気自動車(EV)の開発でしのぎを削る自動車メーカーにとって、リチウムイオン電池の老舗で、世界トップレベルとされるソニーの生産技術は垂涎の的だ。被災地での採用活動は“火事場泥棒”と強い批判が上がっているが、すでに電池メーカーと自動車メーカーの垣根は消えつつあり、「弱肉強食」のビジネスに拍車がかかっている。
一方、世界3強に残ったパナソニック(三洋電機含む)も、中国に生産拠点を移すなどコストダウンに必死だ。ノウハウの塊の「前工程」と呼ばれるプロセスも含め、中国での生産比率を50%に上げる。さらに電池の主要材料について「(安価な)現地の材料を使うことも検討している」(パナソニック幹部)という。
そこであわてているのが、長らく国内優位といわれてきた電池の素材メーカーだ。すでに供給先はパナソニック頼みの状況にあって、「正極材のメーカーは、中国についていくか、国内にとどまるか、各社とも苦渋の決断を迫られている」(業界関係者)。電池生産の海外移転が進み、素材産業の空洞化の懸念が現実になりつつある。
将来は大型蓄電池、EVとますます有望視されるリチウムイオン電池市場だが、日本メーカーには「いばらの道」が待っている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)