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スマートフォンの理想と現実

ジョブズ後のアップルを飲み込む
“スマートフォンの大衆化”というレッドオーシャン

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第6回】 2011年9月7日
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顧客とエコシステムの適度なフィット

 イノベーター層に好まれたことで得られた便益は、サービス提供の側面に留まらない。むしろiPhoneのエコシステム構築にも、イノベーター層は一役買っている。

 特に日本で顕著な傾向だが、iPhoneに飛びついたイノベーター層の多くは、以前から日本でエコシステムを構築していたフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)の世界よりも、パソコンによるWebの世界を好む傾向にあった。

 これは、日本のガラケー文化がWebとまったく異なる独自進化を遂げたこと、一方でiPhoneはGoogleのサービスをはじめWebの世界と近接していたことによる。それこそ、AppleとGoogleが激しく対立する今でこそ信じられないが、わずか2年ほど前までは、Googleのシュミット会長(当時CEO)はAppleの社外取締役を兼任していたのである。

 逆に、ガラケーで一儲けしていたコンテンツプロバイダーの多くは、iPhoneにそう簡単になびくことはなかった。従来のエコシステムでの収益を重視するという当然の判断でもあり、またその最大の魅力となっていた「月額課金」が、Appleのプラットフォームでは当初提供されていなかったことも、その要因であろう。

 こうした傾向や特徴によって出来上がった市場の隙間に、従来の企業ではなく個人のエンジニア(あるいはそれに近い事業者)が、商機を見出した。特にiPhoneのプラットフォームは世界に開かれており、ヒットすれば世界規模でビジネスができる。また開発環境も整備されており、端末のハードウェア能力も高いので、それほど高度な技術的スキルがなくても、手を出すことができる。

 その結果、iPhoneのアプリ開発は一種のゴールドラッシュ状態となり、イノベーター層を中心に「あわよくば一発当てよう」という機運が、世界的に大きく盛り上がった。またこうした雰囲気はiPhoneのエコシステムを発展させる背景にもなり、実際に市場は大きく成長した。

 このような、後発事業者に対するAppleの優位性は、現時点でもまだまだ揺るがない。前回触れた知財バブルも、そもそも競合の筆頭であるGoogleの〈焦り〉が要因の一つであろう。また市場をリードすることで、様々な課題に先んじて手を打てる立場にいるのも大きい。

 たとえば通信事業者は、iPhone自身の成長とAndroid陣営の台頭により、定額制料金をギブアップして従量制への移行を進めたり、Wi-Fi等へのオフロードを進めなければならないほど、追い込まれている。今後はおそらく通信インフラを従来のようにジャブジャブとは使えなくなるだろう。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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