「イノベーションとは論理的な分析であるとともに、知覚的な認識である。イノベーションを行うにあたっては、外に出、見、問い、聞かなければならない」(ドラッカー名著集(5)『イノベーションと企業家精神』)
ドラッカーは、1000件に上るイノベーションの事例を集めて、それらの発想に至る契機を一つひとつ調べて分類していったと伝えられる。
世界は複雑で膨大だからこそ、一つひとつを調べていく。だからこそ思わぬ発見をする。ニューヨーク大学の大学院で夜間の授業を担当していた頃のことである。
発明発見は、イノベーションの種としては、成功の確率は高くなかった。逆に日常業務における予期せぬことがイノベーションとして成功していることがわかった。
ドラッカーは、イノベーションの機会は7つあるという。それを打率順に見ると、予期せぬ成功と失敗、ギャップ、ニーズ、産業構造、人口構造、認識の変化、発明発見というように並んだという。
これらイノベーションの機会は、市場の分析と技術の分析によってさらに詳しく知ることができる。
しかし、左脳の出番はここまでである。ここから先、いよいよイノベーションを成功させるのは右脳だという。イノベーションに対する社会の受容度は、知覚によって知らなければならない。理論ではない。顧客にとっての価値も、そのようにして知らなければならない。製品化へのアプローチの仕方が、やがてそれを使うことになる人たちの行動や期待にマッチしているかも、知覚によって知らなければならない。
こうして初めて、やがてそれを使うことになる人たちが、そこに価値を見出すようになるには、何と何が必要かとの問いを発することができるようになる。さもなければ、せっかくのイノベーションも間違ったかたちで世に出すことになる。そして失敗し、誰か後発の者に実りを持っていかれる。
「イノベーションに成功する者は左脳と右脳の両方を使う。数字を見るとともに人を見る。いかなるイノベーションが必要かを分析をもって知った後、外に出て、知覚をもって顧客や利用者を知る。知覚をもって、彼らの期待、価値、ニーズを知る」(『イノベーションと企業家精神』)