NTTの研究所には、研究所長などの上級幹部で残らない限り、50歳前後で勇退するという不文律がある。大学院の修士課程や博士課程を経て20代半ばで入所するので、現役の研究者でいられる期間は20年と少し。一方で、NTT本体は、電話の時代からインターネットの時代に入り、事業基盤の再構築を余儀なくされている。前回に続き、ベールの向こう側にある研究所の実像に迫った。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

 NTTには、もう研究所は必要ないのではないか。技術は買ってくればよいのではないか──。

 NTTグループの中からさえ、そのような否定的な声が出るようになった。その原因は、1990年代の後半に日本でも爆発的に普及したインターネットの台頭だ。

NTT本体の基盤が揺らぐなかで<br />研究所は存在意義を打ち出せるか<br />――ネット時代の真価が問われる<br />NTT「研究開発体制」の内幕(下)

 現在も通信事業に従事する、あるNTTの技術系OBは、「NTTの研究所は、システムのグランドデザインを描くのではなく、一部(パーツ)を開発する “小さな集団”の寄せ集めに成り下がってしまった」と嘆く。

 NTTは、米国発のインターネットという新しい潮目の変化に対して、NTT固有の技術力で迎え撃つのではなく、その流れに乗る選択をして、かえって自ら の存在価値を下げてしまったからだ。

 それでも、NTTグループ全体では、毎年3000億円の規模で研究開発費を使っている。研究所の運営は、99年のNTT再編で整理された主要5社(NTT東西、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、NTTデータ)からの上納金と、総務省の研究所からの受注案件などを原資とする。

 どこまでを研究開発費に含めるかは異なるが、たとえばトヨタ自動車の7253億円(2010年度)、ソニーの4268億円(同)、日立製作所の3951 億円(同)、米IBMの4620億円(同)などと比べても、NTTだけが突出するわけではない。また、NTTの連結売上高に占める研究開発費の割合は、 2.6%(10年度)、2.7%(09年度)なので、それほど多いとはいえない。

NTT本体の基盤が揺らぐなかで<br />研究所は存在意義を打ち出せるか<br />――ネット時代の真価が問われる<br />NTT「研究開発体制」の内幕(下)