美の追求がエスカレートした結果……
さらにルイ16世の時代になると、女性の髪型の「高さ競争」が始まりました。髪が高すぎて馬車に乗れない人が現れたほどです。1778年には、舞台が見えなくなるという理由で、オペラ座に高い髪型で入場することが禁止されています。このことからも、その高さが異様だったことがわかるでしょう。
また18世紀には、男性の化粧も当たり前となります。髪粉を用いた白や灰色のヘアー・スタイルを際立たせるために、頬などに赤い化粧品を使用するほどでした。もちろん、その化粧を台無しにする髭などは論外です。結果、18世紀のフランスでは男性の顔から髭が消えてしまうのでした。
当然、女性の化粧もエスカレートし、白粉(おしろい)でしっかりと顔を塗って赤い顔料で化粧をし、さまざまな形をしたウールや絹製、またはビロード製の「つけぼくろ」を顔に付けて肌の白さを際立たせました。18世紀の女性の肖像画で、目尻に描かれている黒い斑点を見つけたら、加齢によるシミではなく「つけぼくろ」だと思ってください。
そのような貴族文化を背景に描かれた「ロココ絵画」にも、こうした貴族たちの価値観が表れています。たとえば、ロココ絵画の代表作「ぶらんこ」(ジャン=オノレ・フラゴナール、1768年頃)では、性行為そのものと不倫の世界があからさまに描かれていますが、これは華やかな文化を好んだ当時の貴族たちらしい、市民階級とは違った結婚観・恋愛観、そして人生の悦楽・喜びの追及が表れているのです。
このように、18世紀フランスで発展した特異な貴族文化をおさえておくと、より深くロココ絵画を鑑賞することができます。拙著『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』では、こうした美術の背景にある欧米の歴史、文化、価値観などについて、約2500年分の美術史を振り返りながら、わかりやすく解説しました。これらを知ることで、これまで以上に美術が楽しめることはもちろん、当時の欧米の歴史や価値観、文化など、グローバルスタンダードの教養も知ることができます。少しでも興味を持っていただいた場合は、ご覧いただけますと幸いです。