いま、「美術史」に注目が集まっている――。社会がグローバル化する中、世界のエリートたちが当然のように身につけている教養に、ようやく日本でも目が向き始めたのだ。10月5日に発売されたばかりの新刊『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』においても、グローバルに活躍する企業ユニ・チャーム株式会社の社長高原豪久氏が「美術史を知らずして、世界とは戦えない」とコメントを寄せている。そこで本書の著者・木村泰司氏に、知っておきたい「美術」に関する教養を紹介してもらう。今回は、18世紀のフランスを彩った「ロココ絵画」の裏側に迫る。

異様な文化「ロココ」を牽引したフランスの宮廷人たち

 1715年に、強力な絶対君主制(絶対王政)を確立したルイ14世が死去すると、重苦しい宮廷生活から解放された宮廷人を中心に、繊細で華やかな「ロココ文化」が生まれてきます。ルイ14世の絶対王政の下に生まれた厳格な文化の反動とも言える文化・様式です。

 17世紀のフランス文化が「王の時代」で男性的なものだとするならば、18世紀のロココ文化は「貴族の時代」であり、女性的な文化と言っても過言ではないでしょう。宮廷社会そのものが女性化し、ルイ14世の死後は男性の服装も華美になっていきます。当時の王であったルイ15世も、曾祖父と違って淡い明るい色を好みました。

 すると当然ながら、宮廷人、そしてパリのブルジョワジーも王にならうことになります。それまでは女性的な色合いとされたパステル調の衣服が男性にも流行し、老人でさえ銀糸の刺しゅうを施したバラ色のジレ(ベスト)を着るようになります。老若男女を問わず、17世紀には考えられなかった贅沢で華美なファッションが、貴族やブルジョワジーに定着していくのです。

 こうした見た目重視の華美なファッションは、度を越していきます。たとえば、最近のビジネススーツにもタイトな仕上げのものは多いですが、18世紀の男性のズボン(半ズボン)には、座ることができないほどタイトなものもありました。宮廷のエチケットによって着席できる時とできない時があったため、着席用とそうでないものを用意する人までいたくらいです。

 また、ファッションの変化に伴い、男性の髪型(通常はかつら)も女性化しました。ルイ14世時代のように威厳を表すものではなく、後ろにたれた髪をリボンで束ねるなど、その美しさを競うようになります。女性の髪型と区別がつかない人も多くいたほどでした。さらに、男性の趣味ですら女性化します。ルイ15世を含む王侯貴族が、刺しゅうを趣味とするようになったほどです。いかに18世紀が、女性的な時代だったかがわかります。