仕事とプライベートの線引きをしない
仕事は自ら楽しむもの

大塚:ファッションディレクターというチャンスをつかまれて、そこで実績を出され、結果として『CanCam』の部数は伸び、収入も増えていったという感じでしょうか?

渡辺佳恵さん

渡辺:そうですね。収入は、契約なので月いくらと決まっているので変わりませんでしたけれど。部数も、雑誌ってひとりでつくるものではないのですぐには変わらなかったんですが、半年後ぐらいから結果が出はじめましたね。最終的に2006年にファッションディレクターを辞めるときには、20万部だった部数が80万部くらいまでいっていました。

30代を後悔しない50のリスト』にも仕事とプライベートの線引きをしないことについて書いてありますが、私もまるっきり公私混同なんですよ。人生すべて仕事、と。当時で言うと、たとえばスタイリストさんが集めてきた服をチェックしているときのマインドと、自分で洋服を買いたくて伊勢丹をぶらぶらしてるときのマインドと、どっちが仕事でどっちが遊びなのかって言われたらわからないんですよ。プライベートでテレビを見ているときも、これおもしろい、これを雑誌でこういうふうに活かせたらいいなとか。現在の仕事で言うと、お店のプロデュースもしているんですが、見るものすべて、いいと思ったものはお店で活かしたらいいと考える。朝起きてから夜寝るまで、常にそういう感じなんです。でも逆に言えば、仕事ってそれができるぐらい、どれだけ没頭できるかどうかだと思うんですよね。

大塚:なるほど。恐らく、そういう考え方というのは、結果として幸福を感じる度合いが高くなるのだと思います。仕事とプライベートがごっちゃだからこそ、強く没頭もできるし、実は得るものが大きいという。あとで後悔している諸先輩というのは、公私混同の考え方がストイックすぎるというか厳密すぎるというか、スパっと分けちゃって、その間がないような感じがしますね。間がないと、二つの世界をつなぐものもないので、結果としてバラバラの人生を生きている分、充実感も得にくいのかもしれません。

渡辺:仕事がそんなに楽しくないって思っている方が多いのかもしれませんね。でも、仕事って楽しいし、楽しくないなら自分で楽しくするべきだと、私は思っているんですね。たぶん私と同じ仕事をしていた人間でも、私ほど楽しまなかった人もいるんじゃないかと思います。私は自分の好きな仕事をやっていたので、すごくすごく楽しんでいたけれど、やらされ仕事でライターをやっていた子もきっといたと思うんです。だから、仕事を楽しくできるかどうかは本人の意識次第だと、私は思うんです。

大塚:そうですよね。「自分で楽しくする」という発想は大切ですね。仕事をおもしろくしよう、楽しくしようと何か心がけたことはありますか? それとも、大前提として「大好きな仕事」をするということを意識されていたのでしょうか?

渡辺:そもそも好きな仕事だからというのもありましたけれど、やはりおもしろくしよう、楽しくしようといつも心がけました。たとえば企画をやると、翌月によかった企画とか買う動機になった企画とか、毎月必ずランキングが出てくるんですね。そのランキングで、「必ずベスト5に入ろう」というのを、ライター時代も自分の中でずっと目標として決めてやっていました。好きなコーディネート、嫌いなコーディネートっていうのも、毎月編集部に貼り出されるんですけど、好きなコーディネートの10個中5個は、絶対自分の手がけたコーディネートにしようとか。そういうことを目標にやっていたのは、たぶん私ぐらいだと思います。みんなそこまでそのことにこだわってなかったように思います。でも私は、小さな目標を立てて、そこをクリアしていくことが楽しくて仕方がなかったんですよね。