企業が上場後に成長投資を後回しにして利益を“捻出”してしまう構造とは?スタートアップ上場後の成長加速をテーマに活動するシニフィアンの共同代表3人が、ほろ酔い気分で放談、閑談、雑談、床屋談義の限りを尽くすシニフィ談。3人とも兵庫出身の関西人のせいか、やたらと早口、やたらと長話。でもピリッと、ちょっとだけ役に立つ。今回は、スタートアップが上場後に迎える「第二の死の谷」はいかにして訪れるか、どう乗り越えるか議論していきます。(ライター:石村研二)

上場のためにPLを作っていませんか

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):上場後の企業を見ていると、上場後にファイナンスが弱まっているように見受けられるケースが少なくありません。上場前のほうが上場に向けて資金が足りなくなるなとか多少考えるけど、PLを作って上場して資金繰り問題がなくなった瞬間、前年対比下げるのもまずいからマーケティングコスト下げるか、みたいな話が出たりして、ファイナンスによる経営思考が弱まる。ガバナンスもファイナンスも戦力ダウンしかねない課題はありますね。

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):上場時の価値って純利益とマルチプルの掛け算という切り口でしか見られないから、どうしても「PLを作らなきゃ」というインセンティブが働くんでしょうね。

 会社の将来のことを真剣に考える理解のあるVCのキャピタリストだったら、より大きな事業に育てるためにまずはトップライン(売上高)だとか、ユーザー数、取扱高を上げていこう、そのために目先は赤字を掘ってもええよって言ってくれるやないですか。マザーズって、”Market of the high-growth and emerging stocks”の略ですよね。実質的にはシリコンバレーで言うところのアーリーステージやミドルステージの段階にある会社を上場させているわけだから、トップラインを伸ばして将来的なリターンをより大きくするために、目先では赤字を掘るという状況も決しておかしくないはずでしょ。本来であれば。それが上場を意識した段階で黒字化させることが主目的になってしまうと、本末転倒とちゃうかな。

 PLばかり見ている思考態度はあまりにも安直すぎる。本気で事業を成長させたいのなら、投資家も経営者も「PL脳」を払拭しないと。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):大きく成長することがマザーズ上場の際に狙っていたことなのに、上場後に成長を犠牲にして利益を捻出するようなことを意識してしまう、という話は実際に上場企業の人からも聞いたことはありますね。

株主の理解レベルの谷間

村上:一つは、説明責任を負ってる人、つまりステークホルダー・株主の理解レベルがV字で変化するってことがあるんでしょう。上場前は株主は事業やファイナンスに一定の理解のあるVCだから理解レベルは高い、でも上場すると個人株主が中心で理解度がどーんと下がる、そこから大企業になると海外の機関投資家が中心で、理解レベルがまたわーっと上がる。これが理解レベルがV字で変わるということ。

 上場してから大企業になるまでの狭間のフェイズでは、必ずしもリテラシーの高くない投資家、事業に対する理解度が高くない投資家にも向き合っていかなければいけない。

朝倉:これ重要な話ですね。僕は自分の本の中でマザーズ上場後を「第二の死の谷」って呼びましたけど、本来はマーケットからより広くお金を集めるために上場しているはずなのに、現実にはIPO時くらいしかなかなか資金調達の機会もないし、上場前に支えてくれていたVCの方々もいなくなってしまう。

村上:上場後にV字の谷に陥ってしまうことで、結果的に社内の力であるガバナンスとファイナンス、それらが弱まる。

小林:ファイナンス的に言うと、自分たちの会社のバリュエーションに対する意識が弱まる、というのもあるかも。もちろん、日々株価は動いていて常に「時価総額」として計算されているわけやけど、自分たちの今のバリューがどのぐらいか、というのを考える機会が減ってしまう。

朝倉:確かに、そういった議論の頻度は下がるでしょうね。

小林:非上場の頃は、CEOもCFOも総出で、既存株主も巻き込んで、バリュエーションについて頭を悩ませるわけやけど、上場するとこれが「特に意識してなくても自動的に決まるもの」になってしまう。発行体が調達した価格よりも上回りたいっていうのは極めて強い観念としてあるけど、プライマリーマーケットに接する機会が減った結果、「自分たちの適正なバリューがどのくらいなのかを考える機会が極端に減ってしまった」という話は少なからず耳にしたことがありますね。

朝倉:人並みに責任感をお持ちの経営者であれば、上場時に売り出した株や発行した株を買ってくれた方々に報いていかなあかんって普通は思っているはずなんですよ。けれどもその先、セカンダリーマーケットで買った、顔も見えない人たちとなると、なかなか実感を持ちにくくなってしまうんというのはどうしても起こることなのかなと。

村上:この時期の会社って、どうしても本来のCEOロール(役割、機能)が空きがちですね。CFOは「IRやってきまーす」、CEOは「オペレーションやってきまーす」みたいな分担がなされてしまう。もともとは経営チームがガチッとタッグを組んでやっていたのに、上場した瞬間にCEOロールが空席になってしまっているケースがままあるのかなと感じます。