上場企業の経営者は真面目すぎ?
小林:上場したら「値段」がマーケットに表示される、というのは確かにそうなんやけど、その一方で、一流企業だと時価総額とは別にずっと自分たちのバリューを計算してるよね。その金額にマーケットとギャップがあったら自己株買いをするなど、自分たちの価値は自分たちで正しく評価するっていう目線を常に持っている。非上場の頃はみんな意識していたわけで、その観点が弱くなるのはなんでなんやろね。
朝倉:経営者の方にしても、自分のあずかり知らないところで価格が勝手に決まってしまうからといって、そんなコントロールできないものはどうでもいいやと思っているわけでは決してないはずなんですよ。けど、株主の期待にちゃんと応えようとして四半期単位で真面目に黒字を捻出しようとしていると、結果的には会社の成長に十分な投資がすることもできず、本来あるべき姿と噛み合わなくなったりする。ある意味では真面目であるがゆえなんですよね。適当にやってるわけでは決してない。
小林:真面目すぎるのかもね。
村上:V字の谷間に合わせているわけでしょ。それを真面目ですませてちゃダメで、そのクリフを埋める努力をしなきゃいけないのだけど、それがすごい難しい。
朝倉:理想的には、個人株主にもそうした会社の状況をしっかり伝えて、自分たちが啓蒙するぞくらいの意気込みを持つべきなんでしょうね。
村上:このギャップを埋めるのに大きな努力がいるんだっていうのをちゃんと認識して、力を合わせて頑張らないとね。この状況の経営者の仕事は、本当に大変だと思います。上場したばかりの経営者が悩むのって必然ですよね。上場後の大きなクリフ、つまり期待値とのギャップを埋めるのが仕事だって言われると、上場経営者一年目の人に一番難しい難題を丸投げしてることになるから、そりゃしんどいのは当然やと。
経営者グループ全体で見たときに、相対的に経験が浅めの若手経営者の方にその一番難しい難題を押し付けてるっていう、日本独自の市場構造があるわけです。こうした局面をどうやって乗り越えるのかというのは、大事なテーマでしょうね。
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。
村上 誠典 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。
小林 賢治 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科美学藝術学にて「西洋音楽における演奏」を研究。在学中にオーケストラを創設し、自らもフルート奏者として活動。卒業後、株式会社コーポレイトディレクションに入社し経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、取締役・執行役員としてソーシャルゲーム事業、海外展開、人事、経営企画・IRなど、事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括する。
*次回【ポストIPOについて Vol.8】スタートアップを支える先発のVC、抑えの機関投資家。じゃあ中継ぎは? に続きます。
*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2017年9月20日に掲載された内容です。