「先例」が材料になる
シュルツの頭の中にあった歴史の先例の一つが、彼自身の経験(スターバックス)に関するものであったことに注目しよう。
本書ですでに説明しているが、第6感(直感)は過去の経験から生じる。だがシュルツはスターバックスのマーケティングディレクターで、店長としての経験はなかった。だから、シュルツが直感でピンとくるのは、マーケティングに関することしかなかった(「第6感」とは、これまでの経験に似た状況で素早く判断ができる能力のこと。詳しくは本書を参照)
ミラノでシュルツの目に飛び込んできたのは、すべて店内でのことだった(豆ではなく、コーヒーを売っているのか、など)。もしシュルツがマーケティングディレクターとしての視点にとらわれていたら、イタリア人ならコーヒーチェーンをどうやって魅力的に打ち出すだろうという考えに気をとられていたかもしれない。その場合、新しいアイデアは生まれていなかったはずだ。マーケティングディレクターとしての第6感は、新しいアイデアを思いつく助けにはならず、むしろ邪魔だった。
しかし、シュルツはスターバックスの店舗運営に関する「経験」ではなく、「知識」をひらめきの材料にした。シュルツはスターバックスの店舗の状況を知っていた。そして、それは知識として新しいアイデアの材料にするのに十分だった。
シュルツの第6感は、もちろんマーケティングの仕事には役立っていたが、新しいアイデアを思いつく助けにはならなかった。第6感は、すべて経験からくるものだ。第6感のおかげで、あなたは以前に経験したのと同じことを素早く効果的に繰り返すことができる。
しかし第7感にとっては、あなたの経験も、他者が成し遂げた数多くの歴史の先例の一つにすぎない。
この第6感と第7感の違いがはっきり見られるのが、スポーツの世界だ。プロスポーツ選手は、試合中に第6感を使う。だが次の試合の準備をするときには、第7感を使う――自分や対戦相手の試合の映像を分析して、プレイの質を向上させ、勝利を得るためのアイデアを探そうとするのだ。
第6感では瞬時の判断が求められるため、情報源は自分の経験のみに限定される。
だが第7感には時間をかけられるので、自らの経験から一歩離れて全体を俯瞰できる。そこでは自分の経験も、他のあらゆる先例と同じ、情報源の一つと見なされる。