第3ステップ:「突然のひらめき」をつかむ
では次に、シュルツがミラノで新しいアイデアを得るまでに丸一日を要した理由について考えてみよう。ミラノでの初めての朝、街にいくつものコーヒーバーがあるのを目にしたシュルツの心はざわつき始めた。それまでに抱いていた考えはいったん脇に置かれ、頭のなかには、その時点では何の意味もなさないような気まぐれなアイデアが自由に浮かぶようになった。そして、夕方にひらめきが起きた。頭のなかでひらめきが形成されるまでに、一日を要したのだ。
第7感が生じるまでには、もっと時間がかかることもある。何かが気になり、それが心の隅にひっかかったまま一週間が過ぎ、一ヵ月が過ぎることもある。そしてある日、シャワーの最中や、運転中、眠りに落ちかけているときに、ひらめきが起こる。それが、第7感の第3の要素、「突然のひらめき」だ。
私はここ数年間、世界各地で数千人にこの本のテーマと同じ内容の講義をしてきた。講義後には、数え切れないほど多くの受講者が私のところに来て、第7感の体験談を語ってくれた。
私のお気に入りの一つは、ある医師の例だ。本書で先に触れた生化学者のキャリー・マリスと同じく、それは運転中に起こった。ある日、特殊な骨の治療を専門にしているというその医師が高速道路を降りようとしていたとき、ミラノでのシュルツと同じく、突然、大きなアイデアが思い浮かんだ。大慌てで路肩に車を停め、鞄からメモ帳とペンを取り出し、道路を行き交う車の轟音のなかでアイデアを走り書きしたという(医師はその専門的な内容を説明してくれたが、もちろん私にはさっぱり意味がわからなかった)。
その後、医師はそのアイデアをもとにした論文を専門誌に発表し、そのテーマを専門に研究するためにキャリアを軌道修正した。
気づいたとたん「当たり前」に思える
突然のひらめきが生じたとき、なぜもっと前にそのアイデアに気づかなかったのだろうと疑問に思うことがある。シュルツも、「いったん気づいてしまえば、それはあまりにも自明だった」と述べている。
これは、私たちが第7感のもたらすアイデアにショックを受ける大きな理由でもある。私たちは思いつく直前まで、そのアイデアの存在にまったく気づいていない。想像もしたことがない。だが、いったんアイデアを思いついたら、あまりにもその素晴らしさがはっきりとしているので、なぜいままでそれを思いつかなかったのだろうと自分を疑ってしまう。
とはいえ実際には、そうして生まれたアイデアは、誰もが簡単に気づけるようなものではない。そのことは、アイデアを他人に伝えようとするときにわかるだろう。たいてい、相手はアイデアをすぐには理解してくれない。あなたにとってはアイデアのどこが優れているかが自明なのに、相手がそれをすんなりと理解してくれるケースは少ないのだ。