悲観でも楽観でもなく「戦略的」に考える

「フリー・ユア・マインド」のアプローチは悲観的でも楽観的でもない。それは戦略的なのだ。悲観、楽観のどちらのアプローチをとるかは状況による。自分の力ではどうしようもできない問題(カルマ)に直面したとき、悲観的に考えるのはよいことだ。その結果、視点を変えて他の目標(ダルマ)を目指すことにつながるからだ。

 逆に、適切な目標に対して悲観的に考えるのはよくない。目標を達成しようという決意を弱めてしまう。そんなときは楽観的に考える。このように、「フリー・ユア・マインド」では、楽観主義者でも悲観主義者でもなく、戦略家としての立場をとる

 しかし、解決策は他にもある。それは、願望を捨てることだ。願望を持たなければ、それを得られないことで生じる不幸を体験しなくてもすむ。

 この哲学はヒンドゥー教や仏教に見られる。漫画によく登場する、山奥の洞窟に住む老隠者は、まさにそのイメージを表している。仙人のような暮らしをする賢者たちは、人生に何も望まない。世俗を離れ、瞑想することしか求めていない。あらゆるネガティブ感情の源が「欲しいものが手に入らないこと」なのだとしたら、何も望まなければネガティブ感情も生まれないことになる

 だが、「フリー・ユア・マインド」はこの立場をとらない。ダライ・ラマもそうだ。ダライ・ラマは、世界をより良い場所にするために、環境保護などのさまざまな活動に取り組んでいる(長い歴史を誇る仏教では、「欲求を捨てて世俗を離れる」と「世界を変えるために積極的に活動する」という両方のアプローチがとられている)。

「欲求を捨てる」ことで解決する

 とはいえ、欲求を放棄することが効果的な場合もある。「フリー・ユア・マインド」は、「コントロールできない状況」とあなたが取り組もうとしている「目標」のあいだにある矛盾を取り除く。それは、欲求を捨てることでも達成できる。このとき大事なのは、前向きに考えてそうすることだ

 ネガティブ感情の原因となっている問題について、欲求を捨てることができないか自問してみよう。上司に怒鳴られて怒りを覚えるというケースなら、上司に怒鳴られないような行動(ダルマ)をとるという方法の他に、「上司から怒鳴られるのを避けたい」という欲求を捨てるという方法もある。つまり、上司から怒鳴られることを、自分にはコントロールのできない問題として受け入れるのだ。

 これは、対処すべき問題を整理するための良い方法だ。さまつなことではなく、本当に大切なことのためにエネルギーを注げるようになる。あれもしたい、これもしたいということばかり考えていたら、不満を抱えて人生を過ごさなくてはならなくなる

 私たちは、昔の人々に比べてはるかに恵まれた時代に生きている。にもかかわらず、昔の人々よりも多くの不満を感じている。先進国はここ数十年で驚異的な発展を遂げたが、物質的な豊かさに比べて、人々の幸福度はそれほど上昇していないことがわかっている。

 豊かになりたいのなら、それを追い求めるのもいいだろう。それによって不幸な気持ちを味わうことのないように気をつければいい。

 だが、お金だけでは満たされない何かを求めている人も多いはずだ。どれだけ物質的に豊かになっても、いまとは別の何かがしたいと感じる。しかし、その何かが何なのかはわからない。何かはわからないけど、きっとそれはいまよりも自分の人生を充実したものにしてくれるということだけはわかっている……。

 残念ながら、「フリー・ユア・マインド」はそうした問題には役立たない。具体的な欲求や目標がわからなければ、この方法は使いようがない。あなたは漠然としているが、何かを求めている。その何かをどうやって見つければいいのかもわからない。

 だがこの問題に対して、「第7感」は別の方法を提供してくれる。それが本書の次章(第8章「全部をマップにする――霧のような思考を『見えるもの』にする」)のテーマだ。

(本原稿はウィリアム・ダガン著『超、思考法』から抜粋して掲載しています。脳科学の最新研究からわかった脳の力「第7感」については同書を参照)

ウィリアム・ダガン(William Duggan)
コロンビア大学ビジネススクール上級講師。フォード財団での戦略コンサルタントを経て、コロンビア大学ビジネススクールで、「第7感」について大学院課程とエグゼクティブコースで教えている。また、世界の企業の何千人ものエグゼクティブに「第7感」について講義を行っている。2014年、学長教育優秀賞を受賞。著書に『ナポレオンの直観』(星野裕志訳、慶應義塾大学出版会)、『戦略は直観に従う』(杉本希子・津田夏樹訳、東洋経済新報社)など。『戦略は直観に従う』が「strategy+business」誌で年間最優秀戦略書に選出されるなど、その独創的で精力的な活動は各界で高い評価を得ている。
児島 修(こじま・おさむ)
英日翻訳者。立命館大学文学部卒(心理学専攻)。訳書に『やってのける』『「戦略」大全』『勇気の科学』『自分の価値を最大にするハーバードの心理学講義』(いずれも大和書房)、『自分を変える1つの習慣』(ダイヤモンド社)、『競争の科学』(実務教育出版)、『ストラテジールールズ』(パブラボ)などがある。