最悪のタイミングだった。タイのインラック政権が内需拡大策の目玉として、「マイカー減税」を9月16日に実施したところ、わずか半月後に大規模洪水が発生した。タイの自動車市場は日系メーカーの独壇場である。2010年の市場規模87.2万台のうち、約9割を日系メーカーが占める。減税が来年12月までの時限措置であったことから、日系メーカー各社はその特需をつかもうと増産体制を敷いた直後のことだった。

 減税の中身は、排気量1500cc以下の小型乗用車やピックアップトラックの物品税が最大10万バーツ(約24.7万円)まで払い戻される、というもの。

 じつは、マイカー減税に先行して09年より「エコカー減税」が導入されており、一定基準を満たした製造メーカーを対象に、法人税、輸入関税が免除されている。もっとも、タイ政府の認定を受けて実売されているのは、日産自動車「マーチ」「アルメーラ」、ホンダ「ブリオ」の3車種に限られていた。「マイカー減税によって、認定エコカーを持たないトヨタ自動車が最も恩恵を受けられるはずだ」とある自動車メーカー幹部は指摘する。しかも、トヨタはタイ市場のシェア4割を握る。

 目下のところ、タイの10月の新車販売台数は、首位トヨタ、2位いすゞ自動車、3位ホンダなど上位陣が軒並み前年同月比4~6割減と、工場停止の影響で大打撃を受けてはいる。だが、6位マツダが7割の減産を強いられながらも、販売台数が同23.8%増となるなど、被災地以外の地域で販売を伸ばす“健闘”も見られた。自社工場が冠水したホンダ以外のメーカーは、続々と操業を開始しており、いよいよマイカー減税商戦の火ぶたが切られる。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

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