2015年に刊行された『お客さんの笑顔が僕のすべて!』――世界でもっとも有名な日本人オーナーシェフ、松久信幸さんの著書が、このほどアメリカで英訳され、出版された。来日した松久さんに、英語版刊行の経緯や反響について聞いた。(インタビュー・構成:ダイヤモンド書籍オンライン編集部)
待ち望まれていた英語版
――11月7日にアメリカで『お客さんの笑顔が、僕のすべて!』の英訳版がNobu: A Memoirというタイトルで刊行されました。ご感想をお聞かせください。
日本語で本を出したのが、3年前の2014年8月。それから、自宅のあるロサンゼルスでも、NOBUのレストランがあるニューヨークでもロンドンでも南アフリカでも、「いつ英訳されるのか?」といつも聞かれていたので、まずは英語版が出てホッとしています。正直、照れくさい感じもありますが……。
――3年がかりでようやく英訳版の刊行となったわけですが、その間のいきさつをお話しいただけますか?
日本の出版社で本を出すと決めたときから、拠点がアメリカなので英語版も出してほしいとお願いしていました。僕の最初のレシピ本『nobu THE cookbook』は先にアメリカで英語版を作って、それを日本語訳していました。「ノブさんは世界を舞台にしているんだから、先に英語で書いた本を出したほうがいい」とアドバイスしてくれた人もいましたが、自分の経験や考えを語るには、やはり母語である日本語で、という思いが強かったんです。
そして、ニューヨークの良い出版社と契約することができました。翻訳も、キャシー平野さんという日本語のニュアンスをよく理解してくださる方にお願いでき、訳すプロセスで彼女からの質問に答えるミーティングをしたり、出版社を通じてメールをやりとりしたりしました。
英語になったものを読んでも、僕自身は細かいニュアンスまではわからないけれど、英語版のために書き下ろした「あとがき」の英訳を読んだスタッフが「感動した」と言ってくれたので、もしかすると原文よりよくなっているのかもしれません(笑)。
――英語版を読んだ方からの反響はいかがですか?
本が出てから日が浅いのと(取材は11月20日)、僕がロシア、ドバイ、イギリスなどあちこち出張していてアメリカにまだ戻っていないため、身近な人たちからの感想がメールやSNSで届いているだけです。「今まで雑誌のインタビューなどで断片的に知っていたことが、非常によく理解できた」「本を読んで励みになった」といったコメントをもらっています。
若い人たちは、ペルーやアラスカでの昔の僕の挫折体験を「知らなかった」と言う人も多く、「自殺を思うほどのどん底の経験を乗り越えて、今があるのですね」と感想を寄せてくれた人もいます。
世界各地のレストランのスタッフが刊行をとても喜んでくれて、インスタグラムなどで「英訳本が出たよ」と拡散しているようです。本を読んでNOBUのフィロソフィーへの理解がいっそう深まったという声もあり、僕としてはいちいち説明しなくて済む部分ができて助かります。今年は新しいホテルもオープンし、3年前は30数店だったレストランが、今は50近くまで増え、各店に年に1回行けるかどうかという頻度になっているので、本を読むことで世界中のスタッフに僕の考えをシェアしてもらえるのは、とても大きな意味があります。