日本料理が世界の料理として進化していくためには、調理法とともに国内外で優れた料理人を生み出し、「点を線に」してゆかなければならない。「世界のNOBU」として腕を振るう料理人・松久信幸と、京都の老舗料亭・菊乃井という日本料理の最前線で活躍する村田吉弘。海外と国内、場所を異にするふたりの日本料理人が「世界の日本料理」のためにできることとは何だろう?
松久信幸による新著『お客さんの笑顔が、僕のすべて!――世界でもっとも有名な日本人オーナーシェフ、NOBUの情熱と哲学』の発売を機に、日本料理界の巨匠が語り合った。(取材・構成 森旭彦)

日本料理「見て覚えろ」の次の時代へ

村田 日本料理は、今でもなお「見て覚えろ」の厳しい職人文化に根ざしています。もちろん素晴らしい文化なのですが、「焼き10年」の世界では料理人が育つのに時間がかかりすぎてしまうことも事実です。

村田吉弘(むらた・よしひろ)
京料理店「菊乃井」三代目主人。
1951年、京都・祇園 の老舗料亭「菊乃井」二代目の長男として生まれる。立命館大学在学中、フランス料理修行のため渡仏。大学卒業後、名古屋の料亭「加茂免」で修業を積む。 1976年実家に戻り、「菊乃井 木屋町店」を開店。93年菊の井代表取締役に就任。現在は本店「菊乃井」、木屋町「露庵 菊乃井」、東京の「赤坂 菊乃 井」の主人を務めるほか、東京の高島屋・東急両百貨店にショップを出店、さらに数多くの料理店のプロデュースも手がけている。
2009年、「菊乃井」が「ミシュランガイド京都・大阪2010」で三ツ星を獲得。2012年、「現代の名工」「京都府産業功労者」、13年「京都府文化功労賞」を受賞。NPO法人日本料理アカデミー理事長。

 見て覚えることももちろん大切ですが、最初に「どのようなものが一番良い“焼き”か」をはっきりと示して理屈を教えることで、どこをトレーニングすればいいかが把握しやすくなり、成長も早くなるのではないでしょうか。それに、「昔は冬の寒い日に、はだしで三和土を掃除した」なんていう修業は、「何の意味があるの?」と思います。

松久 僕も修業時代に経験した昔ながらの考え方では、根性はつくと思いますが、根性は他のやり方でもつけることができますしね。形だけを受け継ぐのではなく、今の時代にもっとも相応しい教え方を考えることも、文化の継承には大切なことです。

 僕の場合は海外の経験から、褒めて伸ばすということの大切さを学びました。たとえば僕が料理をお出しすると、お客さんから「You are great!」「You must be genius!」と、おおげさなくらい褒められました。僕は嬉しくなって、「もっとがんばらなきゃ」と思ったものです。

 日本の「教える」文化では、悪いところを見つけて直すのが先行してしまいます。一方で欧米の文化はまず、良いところを見つけて褒めて伸ばします。どちらにもいい面と悪い面がありますが、いいところを褒めて伸ばす方が、人間は素直に、自由に伸びていけると僕は思うのです。