優れたリーダーは、「大河の流れ」のように考える
この間、数十年——。
家入さんは、グローバル競争の真っ只中に身を置きながら試行錯誤を続け、ファイアストン以外にも多くのタイヤ会社の買収をはじめ、ありとあらゆるシミュレーションをやり尽くしてきた。「生きるか死ぬか」を賭けた戦いです。わずかな甘さが身を亡ぼす。そんな危機感に駆り立てられて、細部にわたるまで緻密で繊細な思考を、まさに「大河の流れ」のように続けてきた。その結果、ファイアストンの買収以外に生き残る「道」はないと確信するに至ったのです。
だから、世間からは唐突な決断のように見えたかもしれませんが、それはまったく当たりません。一か八かの賭けに出たわけでもなければ、清水の舞台から飛び降りたわけでもない。「大河の流れ」のように考え続けてきた結果、それ以外に選択肢がないからこそ即断できたのです。
また、当然、社内からは、さまざまなリスクが指摘されました。「買収価格がべらぼうに高い」「投資回収が全くできない」などなど……。しかも、買収を決断するまでの時間があまりにも少なかったため、デューデリジェンスに万全を期すだけの余裕もなかった。どんなリスクが飛び出してくるかもわからないから、「危険すぎる」という指摘もありました。それらすべての指摘は、その点だけに焦点を絞れば、きわめて的確なものでした。
しかし、家入さんは断固として判断を曲げなかった。なぜなら、それらのリスクを避けるためにファイアストンの買収を断念すれば、その瞬間にブリヂストンが生き残る「道」が閉ざされるからです。それこそ、最大のリスク。予想されるリスクを引き受けて、なんとかするしかない。いや、なんとかしなければ未来はない。そう主張して、家入さんは反対を押し切ったのです。